「是非、貴公の意見を聞きたい」
眦を吊り上げたソーマ・ピーリスを前にして、ティエリア・アーデは珍しくうろたえた。
「意見と言われても…」
ソーマは直立不動の姿勢のままティエリアを睨み続ける。
「事情は今 ...

ひとりでデータチェックをしていると、合図もなしに扉が開いた。
「ティエリア! どういうことっ!」
モニター以外のあかりを落としていたので、突然通路からの光が入ってきて、ティエリア・アーデは顔をしかめた。
「騒が ...

「ライル、いる?
お菓子焼いてきたの。お口にあえばいいんだけど」

満面の笑顔でドアを開けたアニューは、鏡の前の椅子に座っている男を見て、一瞬のうちに表情を変えた。
「なんだ、ニールか」
声のトーンま ...

その日ティエリアは数年ぶりに実家に顔を出していた。
生活費が尽きたのだ。
自宅は自分名義なので、住むところはある。
元から家庭教師に皿洗いまでアルバイトをかけもちしているので、食べては行ける。
だが奨学 ...

ことの発端は客のルール違反だ。
いちげんで泊めた客がほかの客に絡み、銃とナイフを向け合う展開となった。
偽名を使い夜に動く者達のための宿の客の喧嘩は、血生臭いことになるに決まっている。
だから揉め事はご法度で、 ...

ライルはバレンタインデーが嫌いだ。
もてないわけじゃない。
毎年休憩時間ごとに呼び出され、放課後にはチョコレートが鞄に入りきれないほどになる。
ニールはその上を行くが、そんなことで負けず嫌いを発揮していては双子 ...

そんな約束をしてしまったのは、その場の勢いというものだ。
「子どもたちと海に行くの。
あなたも一緒にいかがかしら?」
マリナ・イスマイールからそう誘われて、どうして刹那に断れただろう。
海水浴は以前にも ...

刹那がティエリア宅を訪ねたのは、ある差し迫った必要があったからだった。
放浪癖がついて、世界中、あるいは宇宙にまでふらふらと風の吹くまま気の向くまま、な旅人と化している刹那が元気な姿を見せて、ティエリアは喜んだ。
ロッ ...

窓を叩く雨の音が激しくなったのに気づいて、ティエリアは端末から目を離した。
いつの間にか暗くなっている。
カーテンを閉めながら、そういえば今夜は荒れるのだと予報を思い出した。
外にあるゴミ箱を、なかに入れておい ...

皆が遊びに来た。
ライルとアレルヤとソーマと刹那だ。
転々としていた以前の住まいにもばらばらに来たことがあるのだが、今回はたまたま予定が合いそうだったので、調整してきたらしい。
「へえ。いいところだね」

初めて調理したときに比べるとティエリアの腕は確実に上がっているが、いかんせん時間がかかりすぎるので、普段の料理はニールが受け持つ。
昔から厭わしいと思ったことはないが、食べさせる相手がいるとなるとむしろ楽しい時間だ。

ティエリアが我侭を言うことはない。
滅多に、ではなくまったく、ない。
だから例外的なその要求を、聞いてやりたい気持ちは元ロックオン・ストラトス、ニール・ディランディにはある。
  あるんだが、これはどうよ。 ...

月の裏側のデブリ帯で、男は売れそうなものを探していた。
戦闘や事故で壊れた戦艦や宇宙艇のなかには金目のものがたくさん残っている。
普通の人間はそんな不吉なものには近寄らないが、男はいかれていた。
そして見つけた ...

ドアの開く気配に気づいて、スメラギ・李・ノリエガは目を開けた。
ベッドサイドの時計を見ると、明け方近い。
足音を立てないようにして自室へ入っていくのを確認してから、もう一度目を瞑る。
泊まってくればいいのに、と ...

「エイミー、見て見て。イケメンカップルがもめてる」
学校帰りに一緒にバス待ちしていた友達が指差す方を見て、私は固まった。
通りを挟んで反対側の歩道に、確かにイケメンがいた。
兄だが。
交通量の多い通りな ...

「ただいま」
部屋に入った刹那は、一歩進むたびに踏んづける服やらタオルやらを拾いあげつつ、メインルームに入った。
「おかえり、刹那」
素っ気無くではあっても出迎えの挨拶をしてくれるのはいいのだが、頬杖をついてソ ...

穏やかに晴れたある日、青年は森というにはささやかな、淡い緑のなかを歩いていた。
教えられたとおり”彼”、と今でも青年は思ってしまう、その人はいた。
青年の背丈ほどの高さの枝に座り、空を見上げてい ...

枕元の照明をつけて眺めていると、寝ているとばかり思っていた男が片手を上げて顔を隠した。
「なに…眠れないのか?」
「違う。顔を見ていた」
「なんで…? ハンサムだから?」
手を離して、鼻先がつきそうなく ...

「用意出来たか、ティ」
エリア、と続けようとして振り向いたロックオンは絶句した。
「用意は出来た」
胸を張ったティエリアは、確かにきっちり身支度を整えている。
それはもうきっちり。リゾート仕様に。 ...

新年明けましておめでとう。今年もアーデさんの旅路の安全を祈っています。

ミレイナがヴェーダに向けてメッセージを送信すると、すぐさま通信が入った。
「君、馬鹿じゃないの? 届かないのに毎年同じメッセージ送っちゃって」 ...

クリスマスツリーが食堂に置かれていた。
こんなことをするのは浮かれた酔っ払いに違いないという偏見の元、スメラギ・李・ノリエガに確認が取られたが「こう見えて私はなにが紛争の原因になるかということを熟知している人間なのよ」と胸を張 ...

予告もなく、刹那の目の前に掌サイズのティエリアが現れた。
姿の変わることのないこの友は、しかし年を重ねるにつれ少しずつ印象が柔らかくなっていく。

「秘密基地のあった無人島で、マイスター四人でカレーを作ったことを覚え ...

薔薇の庭園は墓場のように静かだ。
アーチを通り抜けると、風に飛ぶ花びらの出迎えを受けた。

「僕に肉体を持たせるなんて、完全勝利宣言のつもりかい。ティエリア・アーデ」
リボンズ・アルマークは、テラスに出した簡 ...

真っ白で透明で上下のない空間に幼子がふたり。
ひとりはすっくと力を込めて立ち、ひとりはいまだ眠いのか、折った膝に頭を乗せている。
ふたりはそれぞれ逆さまに足を向けているため、互いの額が時折触れそうだった。
「ひ ...

小惑星に偽装された秘密基地に、小型艇は到着した。
「さあ、着いたぞ。
わしとロックオンは工廠に行くが、おまえさんどうする」
イアンに声をかけられて、ティエリアは振り向いた。
ロックオン・ストラトスとイア ...

宇宙に咲いたメタルの花を見ながら、スメラギはシートにもたれた。
正式に停戦が命令される少し前に、自然に戦闘は終わっていた。
戦力の大半を削がれ、全滅を覚悟したときの突然の花だ。
茫然自失となったというのが真実だ ...

中途半端に時間が空いた。
「どーする、ティエリア」
食後のコーヒーのあと、ロックオンは問うた。
目の前の甘党は、ストロベリータルトの最後の一切れを口に入れる。
時間潰しにフルコースなどを注文して、必要以 ...

「学生時代の知り合いなんだけど、私に惚れてる男がいるのよね」
酔いでとろけた目をした戦術予報士が、でーんとした胸をばーんとテーブルに乗せて話し出す。
ロックオンはこの女と知り合ってから、酒にもナイスバディにも食傷気味だ ...

扉が開いて、ロックオンはぎょっとした。
さして広くない室内が、乱れに乱れきっている。
ここがCBという秘密組織の秘密基地の、特に重要なポジションを占めるものに与えられるプライベートルームでなければ、空き巣に入られたかの ...

「やめろおおおおっ!」
戦闘中でも滅多に出さない絶叫を上げて、刹那は腕を振り上げ、 なにかにぶつかった感触に夢から覚めた。
「あ…」
床に毛布が落ちていて、ティエリアが手を不自然な形に浮かせていた。
大 ...