グリニッジ標準時刻一月一日午前零時
新年明けましておめでとう。今年もアーデさんの旅路の安全を祈っています。
ミレイナがヴェーダに向けてメッセージを送信すると、すぐさま通信が入った。
「君、馬鹿じゃないの? 届かないのに毎年同じメッセージ送っちゃって」
眼鏡の少年が端末に姿を見せるのは去年の一月一日以来だ。
「あなたは相変わらずね。レジェッタさん」
ハッピーニューイヤー。と続けたミレイナに、リジェネは顔を歪めた。
「やだやだ。女って年を追うごとに厚かましくなっちゃって」
「ありがと。いい女の余裕ってやつ?」
「オバサンになったって言ってるんだよ!」
端末の向こうでリジェネが地団駄を踏んだ。
年を取らないイノヴェイドのこの少年は策士を気取っているがなんでも顔に出てわかりやすい。
リボンズと覇権争いなどをしたのも昔の話で、今はヴェーダで惰眠を貪っている。
ティエリアがいなくなってつまらない、なんでティエリアはあんな遠くに行っちゃったんだろ。気がしれないよ。
姿は見せないが、たまに回線に割り込んできて、ミレイナに愚痴る。
「あー、もう、ティエリアはいつになったら帰ってくるんだろ」
「役目を果たしたら帰ってくるわ」
「そんなのわからないじゃないか。君ってほんと馬鹿だよね」
リジェネはぷんすか怒る。
「まあ僕はいつまでもティエリアを待てるけど。君と違って」
意地の悪い笑みに、ミレイナはむうと頬を膨らませて少女の頃の表情をしたが、すぐに大人の顔に戻った。
「私は生きている限りアーデさんに新年の挨拶を送ります。いつかアーデさんがそれを見て笑ってくれる日が来るから」
「笑う?」
「こう、フッ、って。目を伏せて。アーデさんのその顔、ミレイナは大好きなのです!」
同じ顔だが全然違うリジェネが目を丸くした。
「もしアーデさんが帰って来たとき私がいなかったら、レジェッタさんがアーデさんにそう伝えてね」
「なんで僕が」
「友達のよしみで」
「誰と誰が友達だって?」
うふふふ。とリジェネの友達であるミレイナは笑った。
ヴェーダでさえも追えない遠いところで、ティエリアは戦っているのだろうか。それとも仲間のことに想いを馳せながら地球に向かっているのだろうか。
ティエリアにたくさんたくさん伝えたいことがある。
預かっている言葉もいくつかある。
だかもし会えなかったとしても、ミレイナと仲間の気持ちはティエリアに伝わるだろう。
「明けましておめでとうなのです。アーデさん」
ミレイナが目を閉じて呟くと、端末の向こうのリジェネが口をへの字に曲げた。