「是非、貴公の意見を聞きたい」
眦を吊り上げたソーマ・ピーリスを前にして、ティエリア・アーデは珍しくうろたえた。
「意見と言われても…」
ソーマは直立不動の姿勢のままティエリアを睨み続ける。
「事情は今 ...

ひとりでデータチェックをしていると、合図もなしに扉が開いた。
「ティエリア! どういうことっ!」
モニター以外のあかりを落としていたので、突然通路からの光が入ってきて、ティエリア・アーデは顔をしかめた。
「騒が ...

「イブにクリスマスパーティをするから。
会場はティエリアと刹那の家。
19時スタートよ。
各自食べ物か飲み物持ち寄りすること。
それが参加条件!」

スメラギが携帯からメールを送りまくったのは ...

「助けてくれ」
浅黒い肌をした少年が飛び込んできて、練習着に着替えようとしていたティエリアは、シャツを脱ぎかけていた手を止めた。
「助けてくれ、追われている…!」
大きくはないが切羽詰った声に、ティエリアはロッ ...

シュヘンベルグスケートクラブのホームリンク場「ヴェーダ」に気合の入った声が響いた。
「グラハムスペシャール!」
大技を決めたグラハム・エーカーが、リンクサイドにいる刹那に向けて大きくアピールした。
本来のグラハ ...

ティエリアの住まいは3LDKのマンションだ。
熱心なファンが押しかけてくることがあるので、セキュリティー重視、家賃と光熱費は王留美が払っている。
「君の荷物は明日にでも運び込めばいい。
たいした量でなければ、ス ...

新年一番最初の電話は意外な相手からだった。
「来てくれ、ロックオン。今すぐに」
カワイコちゃんからの要請だが、性別不詳の色気ゼロであるところが、今年の運勢を表しているようで微妙だ。
正月二日の静かな住宅街を車で ...

inn

 レンガ造の二階建て。
十の客室と受付につながる部屋がひとつ。
武器の持ち込みは黙認されているが、建物内での揉め事はご法度。
営業許可など当然ない。

 受付の椅子に座って居眠りをしていると、客がやっ ...

inn

「ひょっとして僕が最初に渡した宿泊料は、とっくに尽きているのではないだろうか」
 ティエリアが切り出したとき、ニールは客室のシーツを洗濯機に突っ込んでいた。
「どうだったかな」
 この半年間、一枚だけ減った札束 ...

inn

 ティエリアが買い物から帰ってきたとき、ニールは受付の椅子に座って煙草を吸っていた。
 喫煙は習慣ではなく、チェックアウトする客からたまたま貰った。
ティエリアは驚いた顔をして、次に灰皿代わりにしていたコーヒーカップに ...

inn

 珍しくニールが買い物に出た。
 ティエリアが客にコーヒーを出していたからだが、市場に着いてすぐに後悔した。
「よう、ニール。別嬪さんに出て行かれたのか?」
 顔見知りの商店主は誰も彼も同じことを言った。 ...

inn

 ティエリアがいなくなって、ニールの生活のなにかが
変わったかというと、そんなことはなかった。
 客は相変わらず受付で無駄に時間を過ごしていったし、ニールもコーヒーを出した。
だがそれはティエリアが来てからの日 ...

inn

 おそらく動揺していたのだ。自覚なしに。
だから気づくのが遅れた。
 肉体を離れヴェーダの一部となったことに動揺していた僕は、リボンズ・アルマークに撃たれたからだを仲間が回収したことは知っていても、その後そのからだが治 ...

inn

背中に走る痛みに顔を顰めた。
短く整えられている爪が皮膚を傷つけることはないが、当然と言うべきか力は結構ある。
「ちょっとだけ手ぇ緩めて」
 ティエリアは小さく頭を振り、もどかしくなったのか腰を揺らした。 ...

刹那が旅立ったあと、ぼろくて広い家にロックオンとティエリアだけが残った。
ここは孤児院だった。
終わらない戦争が生み出す親を失った子どもたちのために、マリナ・イスマイールが私有地を開放したのが始まりだ。
ロック ...

とても暑い日、元マリナの家、今はロックオンとティエリアの家の前に、一台のオープンカーが止まった。
 家の通り一本向こうまで舗装され、前より車は通りやすくなっていたが、すべてのものをなぎ倒す勢いで走ってきたこの車には、関係なかっ ...

 ある晴れた日、刹那が旅立った。
「長いあいだ留守にしようと思う」
 かつて子ども達の声でうるさいほどだった食堂で、三人だけで食事を取っているときに、宣言した。
 前の週にマリナは首都に近い町へと移り、シーリン ...

 ある日の夕方、ロックオンが何気なく空を見上げると、白い月が目に入った。
薄い空色と丸い月を綺麗だと思った瞬間、ここを去ることを決めた。

別れを告げていこうとは思わなかったので、夜中まで待った。
一応荷造り ...

丘の上にある墓地は、この季節は一面緑に覆われている。
それはいつものことだが、こんなふうに晴れていることは珍しい。墓参りの日はたいてい雨か薄曇りだ。
ロックオンのあとをついてくるティエリアの手には、白い薔薇が握られてい ...

 やがて戦争は終わった。
 多くの者にとっては唐突な幕引きだった。
 あと一月停戦が遅ければ、マリナと子ども達の家のある町は戦場となっていただろう。

 巻き割りを終えた刹那が家のなかに入ると、オルガンの音が ...

この町への侵攻が始まると、噂が広がった。
 逃げ出せる者はとっくに逃げ出して、残るしかない者ばかりが残っている町だ。捨て鉢になって暴れたり、この機に乗じる悪党が増えた。
マリナは銃を嫌うが、現実問題として子どもが大勢い ...

 マリナの家で暮らすようになった子どもふたりは、すんなりというわけではないが生活に慣れていった。
 馴染むのに時間がかかったのは、なにも出来ないのに尊大なティエリアではなく、実際的なことはなんでもそつなくこなせる刹那のほうだっ ...

 爆音。
銃声。
土埃。
 身の丈に合わないマシンガンを抱えて走る。

 目を開けると、汗でからだが濡れていた。
隣から声がして、からだを起こしながらそちらを見ると、隣のベッドで上半身を起こし ...

夜になって戻ったロックオンを、シーリンは顰め面で迎えた。
「どこで道草を食ってきたの」
 真っ直ぐ帰ってきたのだが、子どもに合わせたので遅くなった。
途中ティエリアが足を引きずり出したので、リュックを前にまわし ...

この国が戦争を始めてから何年も経つ。
複雑な同盟や条約が絡みすぎて、国民には自国が勝っているのか負けているのかさえわからない。
それでも戦争は続いていた。
 数ヶ月前に空爆を受けたこの町では、最近になって闇市が ...

「ライル、いる?
お菓子焼いてきたの。お口にあえばいいんだけど」

満面の笑顔でドアを開けたアニューは、鏡の前の椅子に座っている男を見て、一瞬のうちに表情を変えた。
「なんだ、ニールか」
声のトーンま ...

その日ティエリアは数年ぶりに実家に顔を出していた。
生活費が尽きたのだ。
自宅は自分名義なので、住むところはある。
元から家庭教師に皿洗いまでアルバイトをかけもちしているので、食べては行ける。
だが奨学 ...

ことの発端は客のルール違反だ。
いちげんで泊めた客がほかの客に絡み、銃とナイフを向け合う展開となった。
偽名を使い夜に動く者達のための宿の客の喧嘩は、血生臭いことになるに決まっている。
だから揉め事はご法度で、 ...

ライルはバレンタインデーが嫌いだ。
もてないわけじゃない。
毎年休憩時間ごとに呼び出され、放課後にはチョコレートが鞄に入りきれないほどになる。
ニールはその上を行くが、そんなことで負けず嫌いを発揮していては双子 ...

そんな約束をしてしまったのは、その場の勢いというものだ。
「子どもたちと海に行くの。
あなたも一緒にいかがかしら?」
マリナ・イスマイールからそう誘われて、どうして刹那に断れただろう。
海水浴は以前にも ...