フィギュアスケーター達のクリスマス

「イブにクリスマスパーティをするから。
会場はティエリアと刹那の家。
19時スタートよ。
各自食べ物か飲み物持ち寄りすること。
それが参加条件!」

スメラギが携帯からメールを送りまくったのは、23日の夜のことだ。
それなのに、声をかけられた全員が集まるとは、なんとみな暇なことか。
「驚いた! 驚いたと言った!
若人の二人暮らしとなれば乱雑を想像していたが、この小綺麗さは予想外!
むしろつまらんと言わせてもらおう!」
なんでこいつまで呼ぶのだ、と刹那がティエリアの後ろに隠れて警戒していたが、3LDKに収まるには多すぎる人数にグラハムもなかなか近寄ってくることが出来ない。
「アーデさんの部屋は、整理整頓ですぅ」
「ミレイナ。人の部屋に勝手に入るな」
「アーデさんの私生活を見ることによって、衣装デザインのインスピレーションになるです」
ミレイナ・ヴァスティはティエリアの衣装のデザインを担当し、母のリンダが縫製をしている。
ティエリアが無名選手の頃からのボランティアだ。
「エロ本とかなさそうだなあ」
「…なにをしている。ロックオン・ストラトス」
「いや。ギャップ萌えってあんだろ」
「ない!」
言い切って、ティエリアは自室のドアを閉めた。
ロックオンは今日もカメラを持っている。
「本当に仕事にだけは熱心な男だな」
「いや、今日はただのお抱えカメラマンだぜ?
おまえも普通にピースとかしてみろよ。撮ってやるから」
「冗談じゃない」
人が溢れかえっているリビングから、熱気と共に宣誓が聞こえた。
「一番アレルヤ・ハプティズム! ムキムキマン体操をします!」
おーっ、と一番拍手しているのはたぶんスミルノフコーチだ。
「また、ある年代にしかわからんネタを…」
ロックオンが頭を掻く。
「にばーんスメラギ・李・ノリエガ、脱ぎまーす!」
おおーっ、と野郎全員のどよめきを押しのけ、カタギリが叫んだ。
「ダメだーっ! 君にそんなことをさせるくらいなら、僕が脱ぐーっ!」
宣言と共に脱いだのか、嵐のブーイングが起こった。
刹那がリビングから飛び出してきて、自室にバリケードを築いて篭城した。
「じゃああたし、三番クリスティナ・シエラ。脱いじゃおうっかなー!」
女子シングルプリンセスの大胆な発言に、再び野郎共が吠えた。
思わずカメラに手を添えたロックオンに冷たい視線を送って、ティエリアはリビングを通り抜けてベランダに出た。
「なんちゃって。やっぱりやーめた。代りにリヒティが脱ぎまーす」
同じクラブ所属の男子シングルリヒンテンダール・ツエーリが引っ張り出される。
「えー、じゃあ仕方ないから、俺、脱ぎまっす」
再び激しいブーイングかと思いきや、拍手喝采。
全員既にぐでんぐでんらしい。
みんなが持ち寄りとは別に、供物のようにスメラギに酒を持ってくるからだ。
「よー、風邪ひくぞ」
ベランダにもたれているティエリアを、ロックオンが追いかけてきて、徐にショッピングバッグを差し出した。
「持ち寄りならスメラギ・李・ノリエガに」
「プレゼントだ。クリスマスのな」
手を出さないので、紙袋を押し付けられた。
「いらない」
「そう言うなって。モデル料だよ」
「王留美に雇われて撮っているんだろう」
「気は心ってヤツだ」
ロックオーン、写真撮って! この瞬間! と酔っ払い共に呼ばれて、ロックオンはリビングに戻っていった。

廊下で袋から出してみると、カーディガンが入っていた。
「アーデさん。それなんですかぁ?」
気配もなく後ろから覗き込まれて、ティエリアは思わず袋を落とした。
カーディガンはしっかり握り締められて無事だ。
「…ロックオン・ストラトスに貰った」
「ピンクですぅ」
「え、なに? なに貰ったの、ティエリア」
目敏いクリスティナが寄って来る。
「やだーっ、可愛いっ! いいなあ、ティエリア」
「平凡なカーディガンだ」
「なに言ってるの。これ、いいものだよ。ほら、肌触りもいいでしょ」
クリスティナはカーディガンをティエリアの頬に押し付けた。
「うーん。アーデさんにピンクですか。
アーデさんは黒の貴公子のイメージだったんですが、うん。今度衣装に取り入れて…」
「止めてくれ」
「ピンクのパンツとかどうですか! 裾はひらひらする感じにして!」
「あ、見たーい、それ!」
「だから止めてくれ」
なにかまたハプニングが起こったのか、リビングから歓声が上がった。
明日絶対ご近所から苦情が来る。

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Posted by ありす南水