(8)
ある日の夕方、ロックオンが何気なく空を見上げると、白い月が目に入った。
薄い空色と丸い月を綺麗だと思った瞬間、ここを去ることを決めた。
別れを告げていこうとは思わなかったので、夜中まで待った。
一応荷造りはしたが、持って行くものはほとんどなかった。嵩を取るのは銃だけだ。ライフルのケースは目立つが、置いていくわけにもいかない。
やがて家のなかで物音ひとつしなくなったのを確認して、部屋を出た。
玄関のドアを開けると、月が明るく夜空を照らしていた。
ああ、俺はこの月を当分忘れねえな。
そう思ったとき。
「こんな時間にどこに行くんだ」
声をかけられ、飛び上がりそうになった。
暗がりにまだ目が慣れておらず、誰だかわかるのに時間がかかった。
「刹那…」
「散歩か」
戦争が終わって治安も回復しているのだから、ライフルを持って真夜中に散歩に出たら、不審者として捕まるだろう。
ロックオンは言葉を詰まらせた。
「おまえこそ、なにしてんだ」
「見てわからないか」
「わかるけどよ」
刹那は壁にもたれて、農機具の手入れをしていた。
「暇なら手伝ってくれないか」
軍手をはめた手で刹那は泥のついた鋤を差し、受け取ってしまったロックオンは、玄関脇に腰を下ろした。
刹那の横には、他にもいろいろ積み上げられていた。
「おまえ、いつもこんな時間にやってんのか」
「たまにな」
刹那は外で賃金の貰える仕事もしているし、本格的にボロになってきた家の修理もしなければならないし、勿論畑の世話もする。
「働きモンだな」
ロックオンは手にした鋤を、磨くでもなく置くでもなく眺めた。
「実はあんたも結構働いている」
「俺は怠けモンだぜ」
「そういうポーズを取っているだけだ。だからあんたに、どこかに行かれては困る」
刹那の手はスコップを磨き続けている。
「おまえがいるだろ」
「俺はまもなく本格的に旅に出る予定だ」
そんな予定を初めて聞いた。
「ティエリアを置いていくのか」
「あいつは大丈夫だ」
「俺は元々流れ者なんだ」
「俺にとってはこの家の人だ。あんたが、俺達をここに連れてきた」
ロックオンは右手に左手に、何度も意味なく鋤を移し変えた。
刹那はスコップを磨き上げ、自分の横に置くと、今度はシャベルを磨きだした。
「なぜ旅に出るんだ」
「世界を見るためだ」
「世界は広いから、居場所を見失うぞ」
刹那は一瞬だけ手を止めた。そして言った。
「大丈夫だ。この家がある」
ロックオンはその言葉を、胸のなかで繰り返した。
「そうか」
呟いてから、刹那の足元にあったボロ布を拾い上げ、鋤の泥を落とし始めた。
ふたりで一晩かけて、すべての農機具を磨き上げた。
空が白くなり始めた頃、部屋に戻って保管庫にライフルと銃を戻しながら、ロックオンは自分自身に失笑した。
戦争が終わってからも落ち着かなかった政局は、皇族の最高位の少年が、議会も掌握したことで安定した。
皇族は祀りごとを行う、最古と言われる血統を受け継ぐ一族で、戦時中には戦意高揚に利用された。
人々も過ぎ去った過去に関心を寄せるより、有象無象の小競り合いが再び戦争を呼ぶ危機を回避出来たことを喜び、首都で行われる華やかなパレードを楽しみにしていた。
戦災で電波塔が破壊されて以来、多くの家でオブジェと化していたテレビが修理され、倒れたアンテナが再び立てられた。
マリナの家も例外ではない。
格別電気関係に強いわけでなくとも、古今東西家電の修理はなぜか男手がやるものだ。刹那は熱が入ると分解してしまうので、ロックオンがテレビを直した。
「中継は十二時からなのよ。今何時だと思っているの」
人妻になっても辛辣さはまったく変わらないシーリンが、目立ち始めてきた腹を突き出して言った。
結婚後もこの家で暮らしてきたが、子どもが生まれたら、夫のクラウスが借りているアパートに引っ越すことになっている。親子は一緒にいるべきだ、というのがこの家に暮らす全員の見解だった。
「まだ間に合うだろ」
「その前の特集番組から、シーリンは見たかったのよね」
ソファに座ったマリナが鷹揚に笑った。
マリナはまもなくこの家を離れる。
以前から町の議員にと推す声があったのだが、長らく辞退していた。孤児を引き取って育てているという、美談と持って生まれた美貌を利用されない賢明さゆえだ。
しかしこのたび国の児童福祉に関わる機関で、顧問という待遇で迎えたいという申し出があり、迷った末に受けた。
この家にはもう子どもは刹那とティエリアしかいないし、未成年だがふたりとも働いて賃金を得ていて、新たな道に進むことを誰も反対しなかった。
刹那とティエリアは、テレビの前のソファに座らされていた。
久しくなかった慶事であり、印刷の悪い新聞で、しかも遠目の写真しか公開されてこなかった皇族を、初めて国民が見る機会でもある。こういうときは全員揃うべきだと、これは勿論シーリンの考えだ。
「これで世のなかが落ち着けばいいわね」
マリナの言葉に、刹那が頷いた。
当たり障りのない特集番組のあと、中継に切り替わった。
「にしても派手だよな。贅沢好きで税金高くなんなきゃいいが」
皇族を乗せた汽車が駅に入り、そこからオープンカーに乗り換えて議会入り、というパレードに対してロックオンが感想を述べると、新聞雑誌を読み込んでいるシーリンが答えた。
「印象ほどお金はかかってないそうよ。演出好きなのは間違いなさそうだけど」
効果は絶大で、沿道には群集がぎっしりだった。
汽車から降りた青年は、その数に萎縮することなく手を振る。最高位の聖職者を思わせる真っ白なスーツに、同じく純白の絹と思しきスカーフを首から垂らした立ち姿は、なかなか優美だ。
「若いわね」
シーリンが眼鏡のフレームを押し上げた。
「年は非公開だったと思うが。確かにえらく若いな」
カメラはまだ遠くからしか、被写体を捉えていない。
護衛に守られながら車に乗り込むそのとき、ようやく顔がクローズアップされた。
がちゃん、と持っていた紅茶のカップを受け皿にぶつけたのはシーリンだった。
マリナもそのままの姿勢で固まった。
ロックオンも同様だ。
その場で変化を見せなかったのは、刹那とティエリアだけだった。
なにかの間違いでは、と何度か視線を往復させたあと、大人三人はそれを確認した。
「ティエリア…?」
シーリンが代表して呼びかけると、なにか? というようにティエリアは眉を動かした。
さっきまで当たり前だった、ティエリアがいつも着ている自分で作ったシャツとズボンが、急にちぐはぐに見えたのは、テレビに映し出された皇族の青年が、ティエリアと同じ顔をしていたせいだ。
誰もなにも言わないので、ティエリアはつまらなさそうに立ち上がった。
どこに行くのか、と刹那を除く面々に目で訴えられ、素っ気無く答えた。
「部屋に戻る。急ぎの頼まれ物があるんだ」
「どう見てもティエリアよね」
もはや慶事がどうのこうのとそんなことよりも、大人三人はただ一心にテレビに映る皇族の顔に見入った。
「そうね…」
「髪型がちょっと違うが。眼鏡もかけてないし」
「でも顔は同じよ」
「刹那、あなたなにか知ってるの?」
「知らない」
アップになるたびテレビに食い入るように見入る三人の後ろで、刹那は淡々としていた。
「他人の空似…?」
「確かにそういう言葉もあるわね」
だがこの顔を見て、ティエリアは動揺しなかった。
ティエリアにはわかっていたのだ。今日テレビに映る皇族が、自分と同じ顔をしていると。
ティエリアは、自分が何者であるかをちゃんと知っていて、その上でここにいる。
だとすれば今更どこから来たかなど、瑣末な問題だ。
「まあそれでいいんじゃねえの」
ロックオンが適当にまとめたのに、誰も反論しなかった。
出自など、本人が知っていればいいことだ。
数日後、舗装されていない道を、土埃がついたら一大事だろうぴかぴかの車がやってきた。
道を間違えたにしては、車自体がこの町に不似合いだ。
外壁の補修のためのパテを持ったまま、門に近寄った刹那は、いかつい黒服の男が、後部座席のドアを開けるところに出くわした。
ぬかるんでいることの多い地面は、幸い今日は乾いていた。そうでなくては真っ白な革靴は、悲惨なことになっていただろう。
両足を揃えて地面に着けたあと、後部座席の人物は流れるような所作で外に出た。
先日と同じ、白尽くめのスーツを着た、ティエリアと同じ顔の若き皇族だった。
「やあ、君」
刹那が呼ばれた。
「ティエリアを呼んでくれないかい。リジェネ・レジェッタが来たと言えばわかるから」
人に命令し慣れているよく通る声に、刹那にしては珍しく逡巡した。
ロックオンかマリナを呼ぶべきか。いや、こういうときにはシーリンか。
考えているあいだに、目の前の相手の視線は奥へ逸れ、そのまま刹那も振り向くと、ティエリアが玄関前にいた。
「ティエリアぁ!」
突然の大声に、これまた刹那にしてはめったになく驚いた。
「久し振りぃ!」
気楽をからだで表現するかのように手を振られ、ティエリアは顔を顰めた。
マリナもシーリンもロックオンも、揃って同じような顔で、居間に入るティエリアと客の背中を見送った。
「すぐすむから。入らないでくれ」
ドアを閉める前にティエリアが言うと、我に返ったマリナが、
「あの、じゃあ、お茶の用意を…」
と言いかけ、
「僕、口が奢ってるから、おかまいなくぅ」
とリジェネが浮ついた調子で断った。
ドアの前には護衛がふたり、番人のように仁王立ちした。
ソファの背もたれの上のほうを、指でつんつん突いただけで、リジェネは座るのを止めた。
「随分と貧乏暮らしをしているんだねえ」
ティエリアはここの生活を、そんなふうに思ったことがなかったが、リジェネは心底気の毒そうな表情を浮かべた。
「ごめんね。迎えに来るのが遅くなって。いろいろ事情があったんだ。わかってくれるよね」
「君の事情などどうでもいい」
ティエリアはいつも以上に素っ気無く言ったが、彼には聞く気もないようで、労働をしたことのない綺麗な指が二本立てられた。
「君が選べる選択肢はふたつだよ」
かつてはティエリアもこんな手をしていた。
「ひとつめはね。また神殿に戻って、あ、神殿再建したんだよ、まだ途中なんだけど、奥座の間は出来てるから安心して。そこに戻って、祀事を行う者達の長となる道」
ふたつめはね。
「皇族として政治的に有益な相手と結婚する道」
何某かの反応を期待したのか、しばらく間が空いたが、ティエリアがなにも言わないので、あてが外れたように頭が振られた。
「僕としてはひとつめがオススメ。ほら、僕ら母体を同じくしている唯一のきょうだいだし、君には近くにいてほしいんだ」
昔みたいに、と付け加えられて、ティエリアはもう遠いものとなっていた生活を思い出した。
かつてふたりは同じ神殿で暮らしていた。
ティエリアはいずれそこの長になる者として、リジェネは中途半端に皇位継承の可能性のある順位にいたため、御所に近からず遠からずに位置する神殿に、預けられていた。
高位の僧しか入れない神殿で子どもはふたりだけで、仲は良かった。
「相変わらずおしゃべりだな。リジェネ・レジェッタ」
名前を呼ばれて、リジェネは顔を輝かせた。
「あれれ、随分ハスキーな声だね。子どものときはもうちょっと高くなかったっけ」
声のことはティエリアが、一時期うがいを心がけていたほど、気にしていることだ。思い切り睨むと、リジェネは大袈裟に肩を竦めた。
「やだなあ。怒らないでよ。君は相変わらずおっかないなあ」
そのわりには、にこにこと笑っている。
「で、どうする? 僕の住まいに着くまでに決めておいてくれる?」
「どちらの道も選ばない」
「あれ? ほんとに怒ってるの?」
リジェネは天を仰いだ。
「もしかして迎えに来るのが遅かったから? でもそれは仕方ないんだよ。なにしろついこのあいだまで、僕はリボンズと血みどろの権力闘争をしていたんだからね。君を探してそれがリボンズに知れて、うっかり人質にでも取られたら大変じゃないか」
人質に取られて足手まといになられたら困る、というのが本当だろう。
「僕にかまわないでくれ」
リジェネは目を丸くしてから、薄く笑った。
「帰ろうよ、ティエリア。話はそれから出来るしさ」
それでも返事がないことに、顔が歪められた。
「もしかして、本気で言ってる?」
「僕は行かない」
リジェネは小さく息を吸い込んだ。拒絶を予想していなかったようだ。
「僕と来たら、贅沢出来るよ」
「興味ない」
「美味しいものを食べられるよ」
「今で充分だ」
「会いたい人に会わせてあげるよ」
「そんな人はいない」
「筆頭侍従だよ?」
「死んだ者には会えない」
「生きているよ」
ようやくティエリアの表情がはっきりと変わったので、リジェネは顔を輝かせた。
「死ぬわけないじゃない。あんなしぶとい女。政治犯収容所でも生き抜いてるよ」
「政治犯収容…?」
「知らない? 戦争中から政府に逆らう連中ばっかり、収監してるとこ」
知っていた。だがなぜティエリアの筆頭侍従だった彼女が、そんなところに入れられるのかがわからない。若干おおらかすぎるところはあったが、間違いなく優秀だった。
「どうして彼女が」
「側付きなのに、君を守れなかったからに決まってるじゃない。君は疎開の途中で死んだと思われていたからね」
だが、とティエリアは言い募った。
「だがそもそも僕は、君を逃がすための囮だったんだろう。彼女に責任など、最初からない」
リジェネは笑顔を消した。
「なんだ。気づいてたんだ」
神殿が安全ではなくなったからと、あの日ティエリアは筆頭侍従に付き添われ、外国に疎開することになっていた。
ほかに運転手と護衛が三人いた。
具体的になにがどうなったのかよくわからないが、突然の衝撃と共に車が急停止し、カーテンが引かれていた窓になにかが激しく当たった。
逃げろ、と応戦している護衛が叫び、侍従がティエリアの僧衣の首のあたりを引っ張った。
地面に叩きつけられ、走れと怒鳴る筆頭侍従の声に押され、走った。
気づくと方向などわからなくなっていて、生まれてこの方、神殿から出たことのなかったティエリアは、その目で世界を初めて見たが、そこは瓦礫の山だった。
どのくらいかわからないほど歩いても、生きた人間にはまったく出会わなかった。
一晩彷徨い、朝が来て昼が来て、なにもかもにうっすらと絶望を抱き始めた頃、瓦礫のなかから自分と同じくらいの大きさの手が出ているのを見つけた。
また死んだ人だろうか、と思ったとき、指が動いた。
空を掴もうとするかのようにもがく灰色に汚れた手に、ティエリアは声をかけた。
僕のきょうだいになるか?
友達、というものを、その頃のティエリアは知らなかった。
しばらく気持ちを整理するように、腕を組んで顔を上に上げていたリジェネは、ティエリアに確認した。
「ねえ、君、ほんとに僕とこないつもりなの?」
「ああ」
「僕といるよりも、ここがいいの?」
頷くと、リジェネは黙り込んだ。
彼もティエリアと同じ日に、ティエリアの乗った車の後続車に乗って疎開する予定だった。だがなぜか途中ではぐれ、その直後にティエリアの乗った車は襲撃を受けた。
皇族はそれぞれ我が身に最大の価値があると思っているので、人を犠牲にすることにためらいがない。
それが身内であっても。
リジェネは居間から出ると、護衛がなにか言いかけるのを、「帰るよ」と遮った。
玄関横の小部屋に集まっていた大人達と刹那が、何事か重大発表があるのではと顔を揃えるのに気づくと、ふん、と鼻を鳴らした。
「人違いだったよ。僕の探していたティエリアじゃなかった」
え、と全員が同時に思った。護衛までもが同じことを思っている顔だ。
「あーあ。こんな辺鄙なとこまで来たのにさ。僕、忙しいんだよ」
まったくもう、と続けながらリジェネは玄関に向かった。
「ちょっとなに。君達、僕を守るのが仕事じゃないのかい?」
置いてきぼりにされた護衛が、慌てて後を追った。
黒塗りの車が去ってから、突然のつむじ風のような来訪者は去ったのだと、一同は気づいた。
車が見えなくなると、ティエリアは一番先に家のなかに戻ろうとした。
声をかけるべきか、かけるとしたらなんとかけるか、大人達は迷ったが、刹那は迷わなかった。
「ティエリア」
足を止めたティエリアに早足で近づき、耳元でなにか言うと、ティエリアは頷いたり首を横に振ったりしていたが、最後に頷いた。
「…なにを話しているのかしら」
シーリンが気遣わしげにしたが、ふたりの声は届かない。
最後に刹那がティエリアの腕を軽く指で突き、みなの視線に気づかせると、ティエリアは踵の位置を変え、正面を向いてお辞儀の見本のような覚悟で頭を下げた。
「騒がせて申し訳なかった」
こういうとき対応が早いのはマリナだ。
「もういいの?」
「ああ。もう終わった」
時間を置いて、ロックオンは刹那を捕まえた。
「おまえ、さっきティエリアとなに話した」
「言えない。そう約束した」
にべもない返事は予想していたが、ロックオンは胸がざわついた。
「俺も一枚噛ませろよ」
刹那は当たり前のように頭を振った。
「ティエリアは、あんたを巻き込みたくないと思う」
これ以上なにも言わない顔になり、実際刹那は黙ってしまった。
刹那とティエリアがなにをしようとしていたのかは、やがて判明した。
リジェネがマリナの家に来てから三日後、突然収監中の主に政治犯が釈放された。
ティエリアは新聞に載った釈放者全員のリストを、玄関先に立ったまま、食い入るように読んだ。
新聞記事には会見するリジェネの写真も載っていて、その顔には以前はかけていなかった眼鏡がかけられていたが、それはどうでもよかったようだ。
新聞から顔を上げたティエリアからは、リジェネが来て以来張り付いていた、思い詰めたような表情が消えていた。
「まさかおまえら、収容所を襲撃しようとしてたんじゃないだろうな」
野菜の収穫にティエリアも畑に出ていた午後だった。
ロックオンの隣にしゃがみ、艶やかな緑に光る実に伸ばされていた軍手をはめた手が、ぴたりと止まった。
鼻で笑ってくれることを期待していたロックオンは、目を見開いたまま、固まってしまったティエリアの顔を見てしまい後悔した。
とりあえず言葉だけでいいから、否定してほしくて雑草を抜いている刹那を見ると、
「まさかそんなことをするわけがないだろう」
恐ろしく棒読みで言ってくれた。
「ああそう。そうか…。そのくらいの分別はあるよな」
「もちろんだ」
刹那が棒読みで断言して、ティエリアは神妙な顔で収穫を再開した。
ロックオンは日差しのせいだけではなく、背中にじっとり嫌な汗をかいているのを自覚した。
いけすかない感じはしたが、リジェネ・レジェッタに感謝せねばなるまい。おそらく恩赦で、ティエリアに関わりのある人物を釈放してくれたのだ。
ティエリアが刹那を巻き込んでまで、助けたいと思うような誰かを。