刹那が旅立ったあと、ぼろくて広い家にロックオンとティエリアだけが残った。
ここは孤児院だった。
終わらない戦争が生み出す親を失った子どもたちのために、マリナ・イスマイールが私有地を開放したのが始まりだ。
ロック ...

とても暑い日、元マリナの家、今はロックオンとティエリアの家の前に、一台のオープンカーが止まった。
 家の通り一本向こうまで舗装され、前より車は通りやすくなっていたが、すべてのものをなぎ倒す勢いで走ってきたこの車には、関係なかっ ...

 ある晴れた日、刹那が旅立った。
「長いあいだ留守にしようと思う」
 かつて子ども達の声でうるさいほどだった食堂で、三人だけで食事を取っているときに、宣言した。
 前の週にマリナは首都に近い町へと移り、シーリン ...

 ある日の夕方、ロックオンが何気なく空を見上げると、白い月が目に入った。
薄い空色と丸い月を綺麗だと思った瞬間、ここを去ることを決めた。

別れを告げていこうとは思わなかったので、夜中まで待った。
一応荷造り ...

丘の上にある墓地は、この季節は一面緑に覆われている。
それはいつものことだが、こんなふうに晴れていることは珍しい。墓参りの日はたいてい雨か薄曇りだ。
ロックオンのあとをついてくるティエリアの手には、白い薔薇が握られてい ...

 やがて戦争は終わった。
 多くの者にとっては唐突な幕引きだった。
 あと一月停戦が遅ければ、マリナと子ども達の家のある町は戦場となっていただろう。

 巻き割りを終えた刹那が家のなかに入ると、オルガンの音が ...

この町への侵攻が始まると、噂が広がった。
 逃げ出せる者はとっくに逃げ出して、残るしかない者ばかりが残っている町だ。捨て鉢になって暴れたり、この機に乗じる悪党が増えた。
マリナは銃を嫌うが、現実問題として子どもが大勢い ...

 マリナの家で暮らすようになった子どもふたりは、すんなりというわけではないが生活に慣れていった。
 馴染むのに時間がかかったのは、なにも出来ないのに尊大なティエリアではなく、実際的なことはなんでもそつなくこなせる刹那のほうだっ ...

 爆音。
銃声。
土埃。
 身の丈に合わないマシンガンを抱えて走る。

 目を開けると、汗でからだが濡れていた。
隣から声がして、からだを起こしながらそちらを見ると、隣のベッドで上半身を起こし ...

夜になって戻ったロックオンを、シーリンは顰め面で迎えた。
「どこで道草を食ってきたの」
 真っ直ぐ帰ってきたのだが、子どもに合わせたので遅くなった。
途中ティエリアが足を引きずり出したので、リュックを前にまわし ...

この国が戦争を始めてから何年も経つ。
複雑な同盟や条約が絡みすぎて、国民には自国が勝っているのか負けているのかさえわからない。
それでも戦争は続いていた。
 数ヶ月前に空爆を受けたこの町では、最近になって闇市が ...