安息の日

薔薇の庭園は墓場のように静かだ。
アーチを通り抜けると、風に飛ぶ花びらの出迎えを受けた。

「僕に肉体を持たせるなんて、完全勝利宣言のつもりかい。ティエリア・アーデ」
リボンズ・アルマークは、テラスに出した簡易ベッドで休むティエリアを見下ろした。
「おかしいなあ。確か僕はヴェーダと一緒に眠ると答えたはずなんだけどなあ。
リジェネの希望は聞いてもらえて、どうして僕のは無視なのかなあ」
目を閉じたままティエリアが言った。
「生まれてきた意味を知りたいのだろう?
だったら、一人でも多くの人間に関わり合うのがいい」
「何百年と人間に奉仕し続けた君のように?」
「共に生きることを奉仕とは呼ばない」
新たに誕生するイノベイドはもういない。
既に数世代に亘って人間に溶け込み、その血を受け継ぐ人間もいる。
役目を終えたのだ。
「僕がまた人間に敵対するとは思わないのかい」
ティエリアは口元だけで笑った。

あれは誰だろうと考えた。
俺の知っているティエリアとは随分と違って見える。
「同じだ。ロックオン。ティエリア・アーデはあの日の、トレミーでマイスターとして俺達と一緒に戦っていた時から、なにも変わらない」
気づくと刹那が横にいた。
やはり俺の知る刹那と少し違う。
「ティエリアを連れて行ってやってくれ、ロックオン」
どこへ。
「最後におまえと同じ所に行くと、あいつ個人の願いはずっとそれだけだ」
だが行けないのだ、と刹那は続けた。
作られた命はそうでない命が辿り着く所には行かない。
「それならおまえが案内してやれよ」
刹那は大人びた笑みを浮かべた。
「おまえでないと駄目なんだ」

ひとりで眠るティエリアに近づいた。
花びらが髪に落ちたので、そっと落とすと目を開けた。
「ロックオン・ストラトス」
笑った顔を見るのは数えられるほどしかないが、きっと俺が知らない間にいっぱい笑ったのだろう。いい笑顔だ。
「そろそろあなたに会える頃だと思っていた」
僕はうまくやれただろうか。
問われて、ロックオンは笑った。
「ああ、上出来だ」

そうだ、俺は死んだのだと、思い出した。
復讐を果たして、しかし命を落とした。
ここはそれから遥か先の世界。
「ロックオン」
夢見るようなティエリアの声。
「他の皆にも会えるだろうか」
「みんな?」
「アレルヤやミス・スメラギやフェルト。僕はまた皆に会いたい」
会えるさ、と俺は請け負った。
こんなに頑張ったおまえの望みが、叶わないはずがないだろう?

風が冷たくなってきたと戻ってきたリボンズは、そこに永遠の安息を得たティエリアを見つけた。

Posted by ありす南水