友 来たる

皆が遊びに来た。
ライルとアレルヤとソーマと刹那だ。
転々としていた以前の住まいにもばらばらに来たことがあるのだが、今回はたまたま予定が合いそうだったので、調整してきたらしい。
「へえ。いいところだね」
「田舎暮らしを体験したけりゃ、泊まりで来いよ。客間があるから」
うん、いいね、とアレルヤが興味深そうに古い元農家を見て回る。
「あのペットはこの家についてたの?」
「まさかだろ。迷い込んで来たんだよ」
出迎えのために子豚を抱いて門の前で待っていたティエリアに、一同は盛大に驚いた。
鬼と呼ばれたティエリア・アーデと豚の子ども。
ただひとり、刹那だけが表情を変えず、
「…可愛いな」
と呟き、
「触ってもいいか、ティエリア」
「抱いてもいいぞ」
「そうか」
と、そこだけ聞けば違う意味に取れそうな会話をティエリアと交わしたあと、心置きなく子豚と戯れるために庭に残った。
「刹那とティエリアって似てるよね」
窓から子豚とふたりの様子を眺めながら、アレルヤが呟いた。
「1、2があって、3から9までなくて、いきなり10ぷらすアルファの結論に達する思考回路とか」
「いないと思って探したら、同じベッドで寝てました、とかいうはめにならないようにな、兄さん」
「ライル…」
お茶の用意をしていたニールは、アレルヤの発言を思い切り発展させた弟に顔をひきつらせたが、ライルは意にも介さずテーブルの上のスコーンに噛り付いた。
「あ、うまい」
ニールが傍で見ていたが、ほとんどの工程をティエリアが作ったものだ。
スコーンなどは比較的大雑把でも大丈夫だが、菓子作りには材料の計量が大切で、レシピ通りきっちりしなければ気のすまないティエリアには向いている。
自分では飲まないが、カクテル作りなども得意だ。
「まあ、いいじゃん。
兄さんの念願のペット生活だろ。豚っつーのがあれだけど」
念願?とアレルヤが聞き返し、そうそう、とライルは答えた。
「うちって集合住宅だったから、ペット駄目だったんだよな。
でも誰かさんが拾ってくるわけよ。しょっちゅう。犬とか猫とか」
「へえ。でも捨て犬とか猫とか、実際あんまり見ないよね」
「普通ね。でもなぜか見つけて拾ってくるわけだ。この人は」
視線の先の兄は、お茶を入れることに集中している。ふりをしていた。
ニール少年が拾ってくる犬猫は、当然家では飼えない。
そしてニールのお友達の女の子のおうちが、次々とペット持ちになっていくのだ。
「もうこうなるとステイタスなわけよ。
ニール君から貰った犬、猫飼ってるのー、ってのが。
でもって、そうやって結局どっかに引き取ってもらえるから、どこまでも懲りずに拾ってくるわけだな」
「ロックオンて、子どものときから狙い撃ってたんだね」
アレルヤのコメントに、ニールははっきり顔を顰めた。
「ライル、おまえ、そんな話、ティエリアにするなよ」
「あ? 悪い、とっくにしたかも」
ライルはわざとらしく視線を逸らせ、ニールは拳を握り締めた。
ティエリアが子豚を飼いたいと言い出したそもそもの根本に、子どもだった自分の無責任な博愛主義に基づく八方美人話がありそうな気が、ニールにはしてきた。
そんなふうにティエリアの思考回路は、時折妙なつながり方をするのだ。
一方アレルヤは別のことを思っていた。
ニールが戻ってくる直前、ティエリアはよくライルと話をしていた。
主にライルが喋っていて、ティエリアはぼんやり聞いている、という風だったが、あの時ライルは今話したようなことを聞かせていたのか、と。

ティエリアと刹那は子豚をあいだに挟んで、芝生に座っていた。
「ティエリア」
呼びかけられて、ティエリアは目線で答えた。
昔からの癖だが、目が大きいので向かい合う相手に幼さを印象付ける仕草だ。
張り詰めたものがなくなった今は、特に。
「幸せか」
真っ直ぐな問いかけにティエリアは一度瞬きした。
「わからない」
刹那はすぐさま言葉を変えた。
「一日一度笑えているか」
真面目な顔で首を傾げるティエリアに、さらに言い換える。
「そういう気分になるだけでもいい」
「それならば」
「そうか」
うん、と頷いたティエリアは、先ほどと反対側に首を傾げた。
「そういうことは、私より、彼に聞いたほうがいい。と、思う」
「必要ない」
刹那の即答に、ティエリアは眉根を寄せた。 「なぜ」
「ニール・ディランディが幸せかどうか、見てわからないのはおまえだけだ、ティエリア・アーデ」
ティエリアはわずかに頬を膨らませるような表情になったが、わからないのは本当だったので黙った。
幸せになれ。そのために生きろ。と、刹那はまるで暗示のように、繰り返しティエリアに言う。
「そういう君は幸せなのか、刹那」
ティエリアが問い返すと、刹那は虚を突かれたのかぽかんとしたが、すぐに表情を緩めた。
「ああ、幸せだ」
その言葉が本当なのかどうか、ティエリアにはやはりわからなかったが、信じることにした。
芝生を駆ける音がして振り向くと、ソーマが白い頬をやや赤く染めて走ってきていた。
「私にもハロを抱かせてくれ!」
やや上擦った声で両手を伸ばすソーマに、ティエリアは子豚を差し出した。

Posted by ありす南水