学校帰り

「エイミー、見て見て。イケメンカップルがもめてる」
学校帰りに一緒にバス待ちしていた友達が指差す方を見て、私は固まった。
通りを挟んで反対側の歩道に、確かにイケメンがいた。
兄だが。
交通量の多い通りなので声までは聞こえないが、兄のひとりが美人を追いかけていた。
私は片頬を引きつらせた。
  ニール…なにやってんの。
両親でさえ時々見分けがつかなくなっていた一卵性の双子の兄だが、私は間違えたことがない。
ニールは上の兄で、十年前に両親がテロに巻き込まれて死んでから、きょうだいを養ってくれた。
十四歳の私はいまだに養ってもらい中だ。
長らくどこに住んでいるのか、なんの仕事をしているのか不明だったが、最近戻ってきて寄宿舎から私を引き取って一緒に暮らし出した。
「あっ、腕掴んだ!」
見ているからわかっているのに、友達が解説してくれる。
ふたりとも背が高くて目立つので、ほかにも通行人の視線を集めている。
「あっ、ひっぱたかれた!」
解説が入る前に、私は顔を歪めていた。
だってとっても痛そうだったんだもん。
そこで私はようやくニールともめている相手をよく見た。
目だけはとってもいいのだ、私は。
最初の印象通り美人。
スラックスにシャツにカーディンガンという素っ気のない格好をしているけれど、すらっとしていてしなやか。
でもなんだか中性的。
なんで眼鏡なんかかけてるんだろう。
それがあるせいで、整いすぎて怖いくらいの容貌が多少和らいでいるが。
思い切り頬を叩かれたニールは、それでも掴んだ手は離さず、なにかを大声で言った。
すかさず言い返されても、ニールはまったく揺るがない。
あれ、と思ったのは、ニールが私が見たことのない顔をしていたからだ。
なんだか知らない人みたい。
ああ、そうか。
私にはお兄さんだけど、ニールは外ではこんな顔をしているんだ。
なんて思っていると、突然ニールの声が聞こえた。
信号で車の往来が止まったのと、ニールが声を張り上げたからだ。
「愛してる! 結婚しよう!」
そしてニールは美人を引き寄せてキスをした。
またひっぱたかれるんじゃないかと思ったが、美人さんはニールに抱きついて、周囲から拍手と冷やかしが上がった。
「わー! 映画みたいー!」
夢見るような友達の声に適当な相槌を打つのも忘れるくらい、私は吃驚していた。
いろんなことに。
信号が変わり、再び車が動き出す。
バスが来たので乗り込んで、窓から外を見ると、もうニールと美人さんはいなかった。
吊革に掴まって、まだどきどきしている胸を撫でてから考えた。

ひょっとして私に、お姉さんが出来るんだろうか。

Posted by ありす南水