みんなのメリークリスマス

クリスマスツリーが食堂に置かれていた。
こんなことをするのは浮かれた酔っ払いに違いないという偏見の元、スメラギ・李・ノリエガに確認が取られたが「こう見えて私はなにが紛争の原因になるかということを熟知している人間なのよ」と胸を張って否定された。
ツリーを囲んで一体誰が、とトレミーの面々が考えていると、12時間前に東京特区から戻ってきた刹那があっさりと申告した。
「隣に住む少年が筑前煮と一緒に持ってきた。あそこでは秋の終わりから12月25日までこれを飾るのだそうだ」
「なんでお惣菜のお裾分けと一緒にツリーを」
アレルヤが素朴な疑問を抱く。
「それをどうしてトレミーに」
スメラギは困惑顔だ。
「出かけに渡されたので置いていく時間がなかった。賑やかな気分を、という意図であるなら、潜伏先にすぎない部屋より隣人の意図に沿うと判断した」
「でも刹那。わかっていると思うのだけど、これは宗教的行事の」
スメラギが言葉を重ねたのは、一歩下がった位置のロックオンが終始無言だったからだ。
異なる宗教の元で育った刹那がこだわりを持っていないのは明らかだが、クリスマスを特別な日として育ったであろうロックオンの方にこだわりがありそうだ。
微妙な沈黙がもたらされる。
なにを思って刹那がツリーを持ち込んだのか本当のところはこの場の誰にもよくわからないが、あの刹那がこれを組み立て飾り付けたのだ。片付けろとは言いにくい。
とはいえやはり政治的宗教的なことはCBから遠ざけておくべきだ。
スメラギが口を開きかけたとき、別の方向から気配がして一同の視線が集中した。
そして驚嘆した。
「テ、ティエリア…どうしたの⁉」
「帽子のようだから被ってみた」
確かにティエリアは帽子を被っていた。サンタ帽だった。
いつものピンクのカーディガンに赤い帽子がシュールだ。
「ああ、それも貰った」
服もある、と刹那に示された衣装がミニ丈のワンピースだったので、ティエリアは怒りの表情で帽子を頭から剥ぎ取った。
「結構似合ってたのに」
余計なことを言ったアレルヤが思い切り睨まれる。
「あ、やだ、このコス可愛い! フェルト着なよ!」
「いや」
フェルトに拒否されたクリスは自分に服をあててみてそれを見たリヒティが、いいっすね!を連呼する。
ロックオンが噴き出した。
そのまま声を立ててげらげら笑い、刹那が真面目な顔で見つめるのに笑いながら答える。
「まあ、いいんじゃねえの」

その日トレミーでパーティーが開かれた。
ミニのサンタコスチュームはスメラギが着て、ティエリアは参加しなかった。

Posted by ありす南水