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枕元の照明をつけて眺めていると、寝ているとばかり思っていた男が片手を上げて顔を隠した。
「なに…眠れないのか?」
「違う。顔を見ていた」
「なんで…? ハンサムだから?」
手を離して、鼻先がつきそうなくらい顔を近づけてくる。
客観的に判断して、この男の容姿は整っている。
だが普通、自分のことをそういうふうには言わない。
ぬけぬけとそんなことを言うあたりが、
「チャラい」
初めて音にしてみたので、声と言葉が馴染まなかった。
なので、もう一度言い直す。
「チャラい、と思って見ていた」
虚を突かれた表情になったロックオンは、すぐにいつもの曖昧な笑みを取り戻した。
「どこで覚えてきたんだ、そんな言葉」
「あなたには関係ない」
「あるだろよ。誰が俺のことをそう言ってたんだ?」
答えろというように掌で顔を撫でられて、不快を示すために眉を寄せた。
本当はそう嫌でもないが、なにもかも許していたら、自分と彼との境目がなくなってしまう。
「忘れた」
「忘れんだろ、おまえが」
口先では負けるので、だんまりを決め込むと、腕のなかに引き込まれた。
「チャラいのは嫌いか?」
「別に。顔などどうでもいい」
それは本当のことだった。
整っている、というのであれば、ティエリアほど造形的に優れた外見を持つものはそうはいない。
デザインされて生まれてきたのだからある程度は納得だが、度の入っていない眼鏡をかけて、 サイズのあっていない服を身に着けて、引きすぎる人目を避けねばならないほど整わせる必要性について、 機会があれば一度ヴェーダに問うてみたいと思っている。
だからティエリアにとって、顔の造作は人を判断する材料にはならない。
新しく覚えた言葉を実例を持って理解出来てささやかに楽しかったのだが、それも薄れてきて眠くなってきた。
狙撃手の腕に頭を乗せるつもりはないので、体の位置を下にずらせて目をつむる。
頭の上で、男が呆れたように息を吐くのがわかった。
「ティエリア。一応言っとくが、それ、誉め言葉じゃないからな」
「ふうん」
それは語感でなんとなく悟っていたが、あえて知らなかったふりをした。