鑑賞時間が長すぎる

「やめろおおおおっ!」
戦闘中でも滅多に出さない絶叫を上げて、刹那は腕を振り上げ、 なにかにぶつかった感触に夢から覚めた。
「あ…」
床に毛布が落ちていて、ティエリアが手を不自然な形に浮かせていた。
大きく瞬きして、状況を把握した。
うたた寝していた刹那に、毛布をかけようとしたティエリアの手を払ってしまったのだ。
「すまない」
「かまわない。うなされていたぞ。ブシ仮面がどうとか」
うっと刹那は呻いた。
悪夢の内容が思い出されて、吐き気がしそうだった。
そんな刹那をティエリアは静かに、しかし力強く見つめた。
「トラウマになっているのか」
「…大丈夫だ。所詮は仮想空間での出来事だ」
「ならいいが」
ティエリアは落ちた毛布を拾い、腕にかけて折り畳んだ。
板についているようないないような、どちらにせよ四年前には考えられなかった様子だ。
「ティエリア」
だからこそ刹那は聞いてみる気になった。
「どうせ撃つならなぜあのとき、もっと早く撃たなかった」
刹那とティエリアの視線が交錯した。
誤魔化す、ということをふたりとも知らない。
だからティエリアは堂々と目を伏せた。
「・・・ふっ。なぜかな」
仮想ミッションの最中、対アレルヤ専用だった言葉が、まさか自分に向けられるとは。
CBの敗退によって、角が取れたどころか激しく研磨されまんまるになっていたかのようだったティエリア・アーデの本質が、実はまったく変わっていないことを刹那は知った。
いや、変化はしているのか。
ティエリアは刹那にしかわからないレベルで、実に楽しそうだった。
「ティエリア、頼みがある」
「なんだ」
「次にもし俺がああいう状況に陥ったら、即座にヤツを撃ってくれ」
赤いガラス玉にも似た瞳がゆらめきもしないので、刹那は念押しした。
「いいか、即座に、だ」
「…。承知した」
…のあいだに微かに舌打ちの音が混じった気がしたが、刹那は聞かなかったことにした。
あの状況で、ブシ仮面を撃ってくれるのは、良くも悪くもティエリア・アーデしかいないのだから。

Posted by ありす南水