愛のことだま
刹那がティエリア宅を訪ねたのは、ある差し迫った必要があったからだった。
放浪癖がついて、世界中、あるいは宇宙にまでふらふらと風の吹くまま気の向くまま、な旅人と化している刹那が元気な姿を見せて、ティエリアは喜んだ。
ロッ ...
天使と嵐
窓を叩く雨の音が激しくなったのに気づいて、ティエリアは端末から目を離した。
いつの間にか暗くなっている。
カーテンを閉めながら、そういえば今夜は荒れるのだと予報を思い出した。
外にあるゴミ箱を、なかに入れておい ...
友 来たる
皆が遊びに来た。
ライルとアレルヤとソーマと刹那だ。
転々としていた以前の住まいにもばらばらに来たことがあるのだが、今回はたまたま予定が合いそうだったので、調整してきたらしい。
「へえ。いいところだね」
子豚と食卓
初めて調理したときに比べるとティエリアの腕は確実に上がっているが、いかんせん時間がかかりすぎるので、普段の料理はニールが受け持つ。
昔から厭わしいと思ったことはないが、食べさせる相手がいるとなるとむしろ楽しい時間だ。
Pinky
ティエリアが我侭を言うことはない。
滅多に、ではなくまったく、ない。
だから例外的なその要求を、聞いてやりたい気持ちは元ロックオン・ストラトス、ニール・ディランディにはある。
あるんだが、これはどうよ。 ...
赤い目
月の裏側のデブリ帯で、男は売れそうなものを探していた。
戦闘や事故で壊れた戦艦や宇宙艇のなかには金目のものがたくさん残っている。
普通の人間はそんな不吉なものには近寄らないが、男はいかれていた。
そして見つけた ...
彼女のためいき
ドアの開く気配に気づいて、スメラギ・李・ノリエガは目を開けた。
ベッドサイドの時計を見ると、明け方近い。
足音を立てないようにして自室へ入っていくのを確認してから、もう一度目を瞑る。
泊まってくればいいのに、と ...
学校帰り
「エイミー、見て見て。イケメンカップルがもめてる」
学校帰りに一緒にバス待ちしていた友達が指差す方を見て、私は固まった。
通りを挟んで反対側の歩道に、確かにイケメンがいた。
兄だが。
交通量の多い通りな ...
穏やかな日
「ただいま」
部屋に入った刹那は、一歩進むたびに踏んづける服やらタオルやらを拾いあげつつ、メインルームに入った。
「おかえり、刹那」
素っ気無くではあっても出迎えの挨拶をしてくれるのはいいのだが、頬杖をついてソ ...
Paradise Lost
穏やかに晴れたある日、青年は森というにはささやかな、淡い緑のなかを歩いていた。
教えられたとおり”彼”、と今でも青年は思ってしまう、その人はいた。
青年の背丈ほどの高さの枝に座り、空を見上げてい ...
New Word
枕元の照明をつけて眺めていると、寝ているとばかり思っていた男が片手を上げて顔を隠した。
「なに…眠れないのか?」
「違う。顔を見ていた」
「なんで…? ハンサムだから?」
手を離して、鼻先がつきそうなく ...
On the beach , Between the sheets
「用意出来たか、ティ」
エリア、と続けようとして振り向いたロックオンは絶句した。
「用意は出来た」
胸を張ったティエリアは、確かにきっちり身支度を整えている。
それはもうきっちり。リゾート仕様に。 ...
グリニッジ標準時刻一月一日午前零時
新年明けましておめでとう。今年もアーデさんの旅路の安全を祈っています。
ミレイナがヴェーダに向けてメッセージを送信すると、すぐさま通信が入った。
「君、馬鹿じゃないの? 届かないのに毎年同じメッセージ送っちゃって」 ...
みんなのメリークリスマス
クリスマスツリーが食堂に置かれていた。
こんなことをするのは浮かれた酔っ払いに違いないという偏見の元、スメラギ・李・ノリエガに確認が取られたが「こう見えて私はなにが紛争の原因になるかということを熟知している人間なのよ」と胸を張 ...
記憶
予告もなく、刹那の目の前に掌サイズのティエリアが現れた。
姿の変わることのないこの友は、しかし年を重ねるにつれ少しずつ印象が柔らかくなっていく。
「秘密基地のあった無人島で、マイスター四人でカレーを作ったことを覚え ...
安息の日
薔薇の庭園は墓場のように静かだ。
アーチを通り抜けると、風に飛ぶ花びらの出迎えを受けた。
「僕に肉体を持たせるなんて、完全勝利宣言のつもりかい。ティエリア・アーデ」
リボンズ・アルマークは、テラスに出した簡 ...
楽園に生まれて
真っ白で透明で上下のない空間に幼子がふたり。
ひとりはすっくと力を込めて立ち、ひとりはいまだ眠いのか、折った膝に頭を乗せている。
ふたりはそれぞれ逆さまに足を向けているため、互いの額が時折触れそうだった。
「ひ ...
そしていつか人間になる
小惑星に偽装された秘密基地に、小型艇は到着した。
「さあ、着いたぞ。
わしとロックオンは工廠に行くが、おまえさんどうする」
イアンに声をかけられて、ティエリアは振り向いた。
ロックオン・ストラトスとイア ...
さよならのかわりに
宇宙に咲いたメタルの花を見ながら、スメラギはシートにもたれた。
正式に停戦が命令される少し前に、自然に戦闘は終わっていた。
戦力の大半を削がれ、全滅を覚悟したときの突然の花だ。
茫然自失となったというのが真実だ ...
人はそれをデートと呼ぶ
中途半端に時間が空いた。
「どーする、ティエリア」
食後のコーヒーのあと、ロックオンは問うた。
目の前の甘党は、ストロベリータルトの最後の一切れを口に入れる。
時間潰しにフルコースなどを注文して、必要以 ...
毒を喰らわば皿まで
「学生時代の知り合いなんだけど、私に惚れてる男がいるのよね」
酔いでとろけた目をした戦術予報士が、でーんとした胸をばーんとテーブルに乗せて話し出す。
ロックオンはこの女と知り合ってから、酒にもナイスバディにも食傷気味だ ...
終わりがはじまり
扉が開いて、ロックオンはぎょっとした。
さして広くない室内が、乱れに乱れきっている。
ここがCBという秘密組織の秘密基地の、特に重要なポジションを占めるものに与えられるプライベートルームでなければ、空き巣に入られたかの ...
鑑賞時間が長すぎる
「やめろおおおおっ!」
戦闘中でも滅多に出さない絶叫を上げて、刹那は腕を振り上げ、 なにかにぶつかった感触に夢から覚めた。
「あ…」
床に毛布が落ちていて、ティエリアが手を不自然な形に浮かせていた。
大 ...
ファンクラブ
コードネームロックオン・ストラトスことライル・ディランディは、トレミーの一室で頭を抱えていた。
彼の前にはひとつの端末。
展開されているのは、事務作業にまつわる情報だ。
「ソレスタルビーイングに来てまで、書類に ...
いつかあなたに追いつく日まで
皆にさよならを告げてから、どのくらい経っただろう。
「どうして僕のデータを消さない」
突然話しかけられて、僕は少し驚いた。
リボンズ・アルマークの意識は頑なに対話を拒んで、随分長い間沈黙が続いていた。
君の求める未来のために 1
リボンズ・アルマークとの決戦で深手を負った刹那が目覚めたとき、情勢はあらかた落ち着いていた。
どさくさ紛れに姿を消したトレミーを、アロウズに決起した軍、つまりはカティ・マネキンは見逃してくれ、 カタロンは反政府組織の冠を外され ...
君の求める未来のために 2
小型艇を操縦しながら、ロックオンは数時間前のヴェーダとの交信を思い出していた。
ミレイナをイアンとリンダがブリッジの外に連れ出したあと、スメラギが通信を引き継いだ。
戻ってこられるのなら、戻っていらっしゃい。 ...
さようなら
叱ってくれてありがとう。
頼ってくれてありがとう。
笑いかけてくれてありがとう。
励ましてくれてありがとう。
甘えさせてくれてありがとう。
一緒に戦ってくれてありがとう。
僕は、皆を ...
ラストミッション
出撃前の最後の機体チェックが慌しく行われている。
ぎりぎりまで休んでいろとイアンに言われたティエリアは、控え室でコーヒーを飲んでいた。
インスタントではあるが、自分の淹れるコーヒーは美味しい、とティエリアは思っていた。 ...