問題児
他人のコンテナを覗いたのに、理由はない。
アニューに裏切られラッセは負傷し、それが原因でマイスターのひとりは戦力外状態だ。
このまま三機のガンダムで戦うことになるかもしれない。
あえて理由をつけるなら、その覚悟と感傷のために足を運んだ。
誰もいないはずのコンテナには予想に反して人影があった。
「ロックオン・ストラトス」
彼の機体を見上つめるその背中に、ティエリアは声をかけた。
振り向かないので、足を進めて隣に立つ。
彼の姿を見るのは久しぶりだ。
激情のままに刹那を殴ってから、ずっと自室から出てこなかった。
反応を示さない男の横顔を、テェエリアは眺めた。
泣き腫らした目とこけた頬。
彼が今心身共にどういう状態であるのか、同じような経験をしたことのあるティエリアには理解出来る。
ロックオン、ともう一度呼びかけた。
「戦う、と刹那から聞いたが」
「…ああ」
掠れた声だ。
「ならばミーティングに参加してもらう」
「…了解」
無理して戦う必要はないのだ、とは思っても、ティエリアには言えない。
だが彼がそう決意するなら、引き止めないつもりだった。
ははっ、と突然男が乾いた笑いを発した。
ティエリアの怪訝な顔に、一瞬だけ冷めた目を合わせる。
「皆腫れ物に触るように遠巻きに見てるってのに、全然空気読まないんだな」
「遠巻きにされたいのか」
事実腫れ物だろう、と思いながら、ティエリアが言うと、これだからよ、と男は顔を背けた。
「食事はしたのか」
「一応な」
では少しは安心だ。
眠って、食べて、その繰り返しの果てに悲しみは薄れていく。
それだけの時間が与えられることを、許されているかはともかくとして。
「では行こうか」
ティエリアが踵を返すと、男は怪訝そうな顔をした。
「ミーティングに出るのだろう」
五分後に始まる、と告げると、男は頭を掻いた。
「保護者同伴…いや、教官殿同伴か」
「君は問題児だ」
はは、と男はまた笑った。
さっきよりは力強い笑みだった。
ティエリアが喪失の痛みにうずくまってしまったとき、失われたはずの存在が現れて、前に進めと手を引いた。
この男の元に、女はやってきて、生きろと言ってくれたのだろうか。
それともそんなお節介は、あの男だからこそなのだろうか。
そんな埒のないことを、ティエリアは思った。