一人旅に出た魏無羨が含光君の道侶として雲深不知処で安心して暮らすようになるまでのお話。
私的「香炉」でもあります。
こちらを表題作にした本を発行します。
3月末まで受付です。Twitterかpixivをご覧くだ ...

  食魂獣に困っている、というわりに村人の態度が妙ではあった。
 旅の仙師と見るや夜狩を頼んできたのに、そのあと魏無羨と目を合わせない。
 退治できない妖に贄を差し出すことで多くを守る市井の人々のやり方について聞いたこ ...

 魏無羨を静室に移し、寝台に寝かせると戸を締め切った。
 枕元に香炉を置き、火をつけると床にひざまずく。
 藍忘機は魏無羨の胸に頭を乗せ、目を閉じた。

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 山間《やまあい》の村の春の景色だ。
 空は青く、穏やかな風が吹き、水車が回っている。
 だがとても静かだ。
 物音ひとつしない。
 気配を感じて右手側を見ると、子どもがひとり藍忘機を見上げていた。 ...

 魏無羨が雲深不知処に落ち着くにあたり、温寧は藍忘機から雲深不知処に近い山の土地を与えられた。
 最初固辞したが「魏嬰のためだ」と言われ、温寧はそこに小屋を建て、畑を作った。
 意識を取り戻した魏無羨はすぐ元気になって ...

 魏無羨は温寧の住まいからロバと雲深不知処に戻る途中、沢蕪君と出会った。
「沢蕪君。あれ、このあたりになにか用ですか?」
 言いながら、そんなはずはないと気がつく。
「もしかして、俺?」
 自分を指差す ...

藍忘機と魏無羨の道侶の儀式とお披露目が終わったあともしばらく、仙門のみならず市井の人々もその話を好んでした。
祝いに来る者や品が届くのがひと段落し雲深不知処が静けさを取り戻したのは、季節がふたつほど変わる頃だった。
お ...

 いまだ目覚めない温寧に新しい呪符を与えて、魏無羨は伏魔洞から出た。
 気づけば朝になっているということも珍しくはないが、今日はまだ夜は明けていない。
 温情の一族を連れてここに来たときは陰の気が空まで覆っていたが、浄 ...

 そこにいるのは懐かしい温情の一族だった。
 彼らは魏無羨を取り囲み、口々に魏無羨を詰った。
「あなただけが頼りだったのに」
「守ってくれると思っていたのに」
「私たちを金鱗台に行かせるなんて」 ...

 琴と笛の音色に藍思追は足を止めた。
 含光君と魏無羨の合奏はいつも雲深不知処の奥深くでされているが、風向きによっては辺りに響き渡る。
「おじさん。この曲をご存知ですか」
 うん、と温寧は頷いた。
 仙 ...

 藍思追が自分のことを「思追」と呼ぶところを初めて見たとき、魏無羨は驚いた。
 同じ年頃の少年たちと比べて落ち着いていた能力も高いしっかり者が、ずいぶんと甘えた物言いだと思ったのだ。しかもそれが藍忘機との会話の途中で、藍忘機が ...

 夜中に目が覚めた藍思追は、そのあと再び眠りにつけず布団から抜け出した。
 松額を付け、衣服を整え外に出る。
 こんな時間に雲深不知処を歩く者は寝ずの番以外にはおらず、とても静かだ。
 歩いて気持ちを静めようと ...

「おふたりの出会った頃のお話を伺いたいです」
 静室に日常的な報告に来て、菓子があるから食っていけと魏無羨に上げられたときのことだ。
 いつにも増して真面目な様子で藍思追はそう言った。
「ああ? なんだ急に」 ...

 藍忘機は瞑想していた。
 意識を沈めたその先は常ならばすべて無になるが、その日は目の前にこの世とあの世を分ける大きな川があり、対岸に礼を取っている女がいた。
「温殿」
 藍忘機は女を呼んだ。
「含光君 ...

江澄

 仕事をしている藍忘機のところに沢蕪君が来た。
「急ぎならば私が代ろうか? 魏嬰のところに江宗主が来ているのだろう」
 そう言う沢蕪君に藍忘機は頭を横に振った。
「私は今日は仕事をします。その ...

朋友

「むさくるしい」
 魏無羨のつぶやきを金凌は聞き留めた。
「なんだって?」
「むさくるしいんだよ。ここ。おまえはそう思わないのか?」
 金凌は実家である金鱗台の次に慣れ親しんだ蓮花塢を ...

仙子

「仙子、お座り」
 すたっ。
「仙子、お手」
 ぽふっ。
「いい子だ、仙子」
「わんっ」
 主人に頭を撫でられて仙子は嬉しそうに吠え、金凌はくるりと後ろを向いた。 ...

   大根

 夜狩に出ていた藍思追と藍景儀が雲深不知処に帰ってきた。
 大量の大根の入った籠を背負って。
「前に魏先輩が訪れたことのある村で、そのときご助言いただいたとおりに畑を手入れしたところ、このように ...

家宴

 魏無羨が藍氏の家宴に参加することも何回目かとなり、育った江氏との家風の違いにも随分と慣れた。
 淡白な料理は相変わらず口に合うとは言い難いが、終わればいつも藍忘機が自ら料理して魏無羨の好きなものを作ってくれ ...

無羨先生

経験の浅い藍氏の門弟が夜狩でしくじり辺境で孤立した。
 報告を受けた藍啓仁はすぐに救援を送ろうとしたが、あいにく甥ふたりは不在で修位の高い仙師も出払っていた。
「仕方あるまい」
 というこ ...

   出迎え傘

 仙督は忙しい。
 ここ最近はとみに忙しく、雲深不知処を開けることが続いている。
「うさぎちゃんたち、含光君の顔を覚えているか? 俺は忘れてしまいそうだよ。なにせ物覚えが悪いからな」

仙督の道侶

ある世家で清談会が執り行われたあとのことだった。
 そう大きくはない世家なので、門から市井の町までの距離が近かった。
 仙督含光君を見送りに大勢が外に出たところに、粗末な身なりの女が駆け寄った。 ...

雪遊び

 仙督に会うために彩衣鎮までやって来た仙師は、朝早く出立しようとして宿の男に止められた。
「お客さん、雲深不知処に行くのかい?」
 そうだと答えると、なら今日はだめだと返ってくる。
「なぜだ ...

 夜狩に出ていた藍景儀が年少の門弟を庇って負傷し、意識を失ったまま雲深不知処に運ばれた。外傷はないのに何日経っても目覚めないと知らせがあり、遠出していた魏無羨は藍忘機と共に急ぎ戻った。
 既にさまざまな治療が施されていたが効果 ...

「おい、大丈夫か? 生きているか?」
 肩を揺さぶられて、藍景儀は目を開けた。
「藍氏にも生存者がいたぞ!」
 松額に白い衣の藍氏が同門の仲間を呼ぶあいだに、藍景儀は頭を振った。
「一体なにがあったのだ ...

 雲深不知処を江澄と金凌が訪れた。
 藍景儀が目覚めない件で魏無羨が江澄に助力を求め、それを知った金凌がついてきた。
 出迎えたのは藍忘機だ。
「魏嬰は瞑想中だ」
「呼んでおいて待たせるとは、あいつもず ...

 羨哥哥が迎えに来るまでここにいるんだよ。絶対外に出てはいけないよ。
 おばあさんに何度も言われて、阿苑は隠れていた。
 でもみんなどこに行ったのだろう。
 どうしてこんなに静かなのだろう。
 羨哥哥は ...

 自分は平和な時代に生きていたのだと、藍景儀は思い知っていた。
 雲深不知処が焼かれたことも、温氏が滅ぼされたことも、そのあと夷陵老祖がどうなったかも知識としてはあった。だがそれがこれほど苛烈なものだとは思っていなかった。

 檀香が鼻腔をくすぐり、藍景儀は目を開けた。
「ひゃっ」
 まず目に入ったのが魏無羨の整った顔で、いきなり変な声を出してしまった。
「戻ったか」
 藍景儀にまたがり手を重ねていた魏無羨のからだを、藍忘機 ...

「さてさて。景儀は帰ったか」
 突然射かけられた矢が藍忘機の避塵で落とされた。
「ありがとう、藍湛」
 話の途中で射たれたことにかつては徒労感に苛まれたが、今はかたわらに藍忘機がいる。下にいる大勢のなかに雲夢江 ...