阿苑と

 いまだ目覚めない温寧に新しい呪符を与えて、魏無羨は伏魔洞から出た。
 気づけば朝になっているということも珍しくはないが、今日はまだ夜は明けていない。
 温情の一族を連れてここに来たときは陰の気が空まで覆っていたが、浄化を繰り返した結果、ややぼんやりとしているが月が見えるようになった。
 伸びをしてから、少し寝ようと戻ろうとして、暗闇でなにか動いた。
 目を凝らして、子どもだとわかる。
「阿、苑?」
 小さな子がいるのは知っていたが、いつも誰かに抱かれて守られているので魏無羨は関わったことがなかった。
「どうした。おばあさんと一緒に寝ていたんじゃないのか」
 阿苑は指を口に入れてもじもじと動いた。
「もしかして、もよおしたか?」
 ほっと気を抜きそうになった子どもに駆け寄り慌てて抱き上げる。
「待て待て! そのままするな、ズボンを下ろせ!」
 間一髪間に合って、魏無羨は胸を撫で下ろした。

 翌日。
「羨哥哥!」
 起きてきた魏無羨の足に阿苑がしがみついた。
「おう、阿苑。朝から元気だな。って、もう昼か」
 笑顔の魏無羨に抱え上げられ頬を指でつままれ、阿苑も声を立てて笑った。
 遠巻きにした大人たちは驚いていた。
 ここに来る前から続く過酷な環境に阿苑は感情を失ったように無表情になっていたし、彼らをここに連れて来た魏無羨は始終険しい顔をしていて、笑った顔を見せたのは初めてだった。
 そうしていると意外と少年のようだ。というより、そこにいるのは温晃を討ち取り、射日で温若寒を追い詰めた夷陵老祖ではなく、無邪気な若い仙師だった。
 このような青年に自分たちは命を託しているのか。
 と、魏無羨より少し年上の者は思い、
 このような青年に自分たちの命を背負わせているのか。
 と、年嵩の者は後ろめたさに近い思いを抱いた。

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Posted by ありす南水