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藍忘機は瞑想していた。
意識を沈めたその先は常ならばすべて無になるが、その日は目の前にこの世とあの世を分ける大きな川があり、対岸に礼を取っている女がいた。
「温殿」
藍忘機は女を呼んだ。
「含光君。瞑想の邪魔をしたことをお許しください」
温情は頭を下げたまま続けた。
「この度一族の最後のひとりが輪廻の輪に入りました。これで全員が次の世へと旅立ちましたので、私も現世を離れようと思います」
一族の長として全員転生するのを見届けていたのか。
「温寧には」
「先ほど別れを告げてきました。含光君。何卒これからも弟をよろしくお願いします」
一瞬の逡巡のあと藍忘機は訊ねた。
「魏嬰には」
藍忘機の知らない蓮花塢での日々があったように、魏無羨には乱葬崗での生活があった。
温情の凛とした声が響く。
「彼は私に会うのはまだ辛いでしょう。私たちは彼を置いていったのですから。だからあなたから伝えて。あの日々、私たちは家族だったと。私たちはあなたが大好きだったと」
藍忘機が頷くと、温情は再び頭を下げた。
「一族を代表して含光君に最大の感謝を。阿苑を育ててくれてありがとう」
「温の名を残すことはできなかったが」
温情は頭を振った。
「私たちの望みはあの子が生きること」
藍忘機はかつて非業の死を遂げた女に最大限の敬意を払い礼を取った。
「藍湛。瞑想は終わったか?」
魏無羨が扉を開けて顔を覗かせたので、藍忘機はゆっくりと座禅を組んでいた膝を崩した。
「温寧が俺とおまえに話したいことがあるんだと。今から一緒に行けるか?」
「無論だ」
答えて藍忘機は立ち上がる。
「思追も連れて行く」
「思追? ああ、そうだな。思追も連れて行ってやろう」
藍忘機は魏無羨の笑顔を見つめた。
「藍湛?」
なんでもない、と頭を振る。
温寧の話は夢で会った温情のことに違いない。
藍思追は自分が生まれた一族のことを知らねばならないし、藍忘機はなぜ自分に会いに来なかったかと不義理を詰るであろう彼を、温寧と共に慰めねるだろう。
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