「おふたりの出会った頃のお話を伺いたいです」
 静室に日常的な報告に来て、菓子があるから食っていけと魏無羨に上げられたときのことだ。
 いつにも増して真面目な様子で藍思追はそう言った。
「ああ? なんだ急に」
 正座する藍思追の前に膝を崩して座る魏無羨は訊ねられると、途端に藍思追は落ち着きをなくした。
「え、えっと。そういえば聞いたことなかったなあって。おふたりのなれそめとか、いつから好き同士になったのかとか」
「ふーん」
 魏無羨は少し後ろにいる藍忘機と目を合わせた。
「思追。おまえ、気になる相手がいるんだな?」
「えっ? いえっ、そんなっ、そんなではないですっ! ただ」
「ただ?」
「私のことはいいですからっ、おふたりのことを教えてくださいっ!」
 真っ赤になって語るに落ちた藍思追ににやにやしながら、魏無羨はあぐらをかいた。
「俺が藍湛に初めて会ったのは、藍氏の座学に参加しに江澄や師姉と一緒に雲深不知処に来たときで、門番と揉めていたら下から藍湛がやってきた」
「すごく詳しく覚えてるんですね。どうして揉めていたんですか?」
「紹状をなくしたんだ」
 ああ、それは。と藍思追は一度言葉を切った。
「私が門番でも入れることはできません」
「だがこっちは指定の校服を着た雲夢江氏の宗主の跡取り一向で、紹状はたぶん宿だから俺が取りに行くと言っている場合は?」
「それは。なんとかする方法があるかも」
 だろ? と、魏無羨は膝を手のひらでぽんと打った。
「それを藍湛も駄目だの一点張りでさ」
 藍思追が藍忘機を見ると、素知らぬ顔をしている。
「それが初対面ですか?」
「そう」
「もしかして第一印象は悪かったですか?」
「いいや? 喪服みたいな全身白づくめだけど、こんな綺麗な人間見たことないなって」
「喪服って」
「莫家でおまえを見たときも、そのときの藍湛を思い出したぞ」
「私をですか?」
「佇まいが似てたんだろうな」
「そんな。恐れ多いです」
 藍思追は照れた。魏無羨は話を藍忘機との出会いに戻す。
「融通がきかないとは思ったけどな。そのあと紹状を取ってきて戻ったら斬りかかってきてさ」
 えっ! と藍思追が驚くと同時に藍忘機が口を開いた。
「あれはおまえが悪い」
「だって俺は雲深不知処が酒を禁じてると知らなかったんだぞ。もっと優しく教えてくれるべきじゃないか?」
「結界を破って入ってきた上に、酒まで持ち込んでいる者になにを諭す」
「魏先輩、そんなことを」
「だって戻ったら江澄や師姉がいなかったし、さっさとなかに入って確かめたほうがいいと思ったんだよ。結局藍湛が雲深不知処に入れてくれてたんだけどな」
「含光君が」
「そう。あ、いいやつだ、って思った。酒は割られたけど。それからまあいろいろあって蔵書閣で一緒に家規を書き写すことになって」
「その話は知っていますが、魏先輩が罰を受けたのを含光君が監視したのでは?」
「いいんだよ、細かいことは。俺は無茶苦茶藍湛に絡んで、藍湛は徹底的に無視してた」
 はあ、と困ったように言った藍思追は藍忘機に訊ねた。
「含光君はその頃、魏先輩に対する印象が悪かったのですか?」
「いいや」
 と、藍忘機は一瞬の間も開けず答えた。
「初めて見る種類の人間にどう接するかわからなかった」
「俺は珍しい動物か」
 魏無羨は口を尖らせた。
「おまえふうに言うなら」
 藍忘機は魏無羨と目を合わせた。
「こんな可愛い人間を見たことがなかった」
「は?」
「門前で。おまえが雲夢江氏の魏無羨と名乗ったときだ」
「可愛いって、おまえ」
「可愛かった」
「まあいいけど」
 藍思追がわざとらしく咳払いした。
「そ、それで、おふたりはいつ親しくなったんですか?」
 魏無羨と藍忘機は顔を見合わせた。
「話してやってもいいが、長いぞ? それから、まったくおまえの参考にはならんと思う」
「なぜです」
「このあと、雲深不知処が焼き討ちにあって、温氏の訓学があって、蓮花塢が襲撃されて、俺が乱葬崗に落とされるんだが」
 聞くか? と魏無羨は心持ち顔を藍思追のほうに寄せた。
「え、っと」
 どう言えばいいのか言葉をなくした藍思追に藍忘機が助け舟を出した。
「魏嬰。思追を困らせるな」
「そんなつもりはないけどさ」
 魏無羨はいざり寄って藍思追の頭を撫でた。
「おまえに好かれてつれなくする女子《おなご》はいないだろうさ。ん? 女の子でいいんだよな?」
 自分たちが男同士の道侶であることを思い出したのか、魏無羨に確かめられる。
「は、はい。女の子です」
「今度連れてこいよ。ああ、ここだと緊張するか? 姑蘇の町で偶然会ったとかを装うか?」
「町で偶然魏先輩と含光君とお会いすることはあまりないかと」
 藍思追は苦笑した。
「でも私が嫌われていなかったら、必ずおふたりには紹介させていただきます」
 藍思追ははにかみながら約束した。

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Posted by ありす南水