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そこにいるのは懐かしい温情の一族だった。
彼らは魏無羨を取り囲み、口々に魏無羨を詰った。
「あなただけが頼りだったのに」
「守ってくれると思っていたのに」
「私たちを金鱗台に行かせるなんて」
「どうして」
「苦しかった」
「痛かった」
「辛かった」
「怖かった」
怨念が少しずつ形になりかけたとき、
「私の一族はそんなことは言わない!」
怒りの声が淀んだ空気を切り裂いた。
魏無羨が振り返るとそこには温寧がいた。
「わ、私の一族は、温情の一族は受けた恩を忘れないっ! 魏公子によって与えられた最後の安らぎの時間に感謝こそすれ、恨み言を言う者はひとりも、ひとりもいないっ!」
おとなしい温寧とは思えないほど激昂している。
「温寧」
自分を庇うように前に立った温寧を魏無羨は呼んだ。
「魏公子。これは幻です!」
「あー、うん。わかってる」
「わかってる?」
「うん。だって、ほら」
一度は怨念の渦になりかけたものは再び複数の人の形を取っていて、そのなかには子どもがひとり混ざっていた。
「阿苑がいる」
温寧は何度も子どもの姿をしたそれを見た。
「こいつらは俺の記憶から形を作ったんだろう。でもこれが本当に亡者なら、阿苑がいるはずがない」
「だったらなぜなにもせず突っ立っていたんです?」
勢いのまま問う温寧に、魏無羨は苦笑いした。
「ちょっと感傷に浸っていた」
そのあいだになにかはまたじりじりとふたりに近づいてきていた。
「魏公子」
「ああ。この空間から出よう」
「どうやるんです」
「阿苑に頼む」
夜狩の最中、突然姿の見えなくなった魏無羨と温寧を探して藍思追は周囲を必死に探っていた。
なにが起こったかわからないので迂闊に動けない。
そこにどこからか魏無羨の声が聞こえた。
「阿苑! 藍思追! 俺と温寧の名を呼んでくれ!」
「魏先輩?」
「おまえが現実だ! 呼べ!」
藍思追は顔を上げて夜の闇に向かって叫んだ。
「魏先輩! 魏無羨! おじさん! 温寧! 私はここです! ここに戻ってきてください!」
目の前が白く霞んで魏無羨と恩寧の姿が見えた。
「魏先輩! おじさん!」
駆け寄った藍思追の頬を魏無羨はいきなり掴んで引っ張った。
「痛いです」
「おまえのほっぺは気持ちよかったなって思い出した」
「それは小さいときの話です」
魏無羨が優しく微笑んでいるのに気づいて、藍思追は小さい子どもに戻った気がして赤くなった。
「このあたりは思っていたよりずっと邪気が強い。おまえは平気か?」
「はい。私はなんとも」
ここは温氏討伐の混乱時、埋葬されなかった多数の死体が放置された場所だ。
怨念が渦巻き近隣の住民に被害が出ていて、藍氏に夜狩の要請が来た。
「さて」
魏無羨は指を鳴らした。
「では、祓うか」
空が白み始めた頃、澱んでいた空気も澄み渡った。
温寧や藍思追が手こずる相手ではなく、魏無羨にとってはさらに言うまでもない。
「ほい、お疲れさん」
余裕のある労いの言葉に応えようと藍思追が顔を上げると、向こうの木の下でおばあさんが微笑んでいた。
こんなところに生者がいるはずがなく紛れもない亡者なのだが、込み上げた懐かしさに藍思追は思わず声を上げた。
「魏先輩! 温おじさん!」
ふたりに視線を向けられて、木の方を指で示す。
「あそこに、おばあさんが!」
温寧と顔を見合わせた魏無羨は懐から乾坤袋を取り出し、そこからさらに土を掘り返すために持ってきたいくつかの道具を出した。
朝日を浴びながら三人が掘り返した木の根元からたくさんの人骨が出てきた。
身元を明らかにするようなものはなにもない。
「魏公子。でも、わかります。これは、この人たちは、私の一族の者です」
声を振るわせる温寧に、魏無羨は頷いた。
処刑された温情の一族の亡骸が晒されたのちこのあたりに遺棄されたという話を聞いたゆえに、魏無羨は三人でこの依頼を引き受けたのだった。
すべての骨を掘り出し並べ終えると、日は傾きかけていた。
温寧が線香を上げ、魏無羨が地面に膝をつき拝礼し、藍思追もそれに倣った。
「魏公子。私はこれらを衣冠塚に納めてこようと思います」
温寧が言った。
「うん」
「私も一緒に」
藍思追が言った。
「もし骨が見つかったらそうすると、藍湛には話を通してある。部外者だが、俺も行ってもいいか?」
自分も拝礼してから、温寧は座ったままの魏無羨の手を取った。
「あなたは、私たちの恩人であり、身内です」
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