「プラント学園の文化祭に?」
「ええ。それならキラも出てきてくれるんじゃないかと思って。プラントの学祭は前日体育祭で二日目文化祭でしょう。一般公開しているのは文化祭だけですから、ちょっと苦しいですが、うちの体育祭の参考にという ...

「突っ返されたとは、どういうことです?」
「言葉どおりの意味です」
理事長室で、ナタルはムルタ・アズラエル理事長の顔を見据えた。
昨年AA学園の理事長となったブルーコスモスコンツェルンの若き総裁、早い話が同族企 ...

翌日、フラガはグラウンドで秋空を見上げながら、そろそろそういう時期かなあ、とぼんやり思っていた。
そしてやはり午後になって、そいつはやって来た。
AA学園PTA会長ラウ・ル・クルーゼ。
彼は娘のフレイ・アルスタ ...

「それではお邪魔致しました」
挨拶をして門を出た途端、はあ、とマリューは息を吐いた。学校帰りにヤマト家を訪れるのは、週に一度のマリューの習慣となってしまった。
キラ・ヤマトはマリューのクラスの一員で、四月の始業式以来一 ...

「すみません。職員室はどちらでしょうか」

呼び止められて振り向いたフラガの前に、スーツ姿の若い女性。そのあまりのきちんと感に、彼女の正体はすぐに知れる。
「職員室はあっちだけど、新任の先生?」
持っていた竹 ...

三艦の総指揮を執るバルトフェルドから、MSの発進命令が出る。私はしばし躊躇する。会っておかなくていいの…?私の中の女がそう囁くが、艦長である私が足を動かさない。「艦長、少しならこちらは大丈夫ですよ」ノイマンがいつもの口調でそう言った。ブリッ ...

三艦のモビルスーツに発進命令が出る。「ごめんなさい、ちょっとだけ」艦長が席を立ったのは、その直後だ。どこに行くのかは皆わかっている。「あ、モニターできたぞ!」トノムラが叫ぶ。「なに、できたか!」「どれ、どんな様子だ!」チャンドラやパルが一斉 ...

なにが起こっているのか、理解できない。ドミニオンから放たれたローエングリンをストライクが受け止め、そして確かに何秒かそのままの姿勢を維持したあと、私の目の前で消え去った。そのあと私はドミニオンを撃つように命令した。ドミニオンは沈んだ。おそら ...

本編沿い短編

「ねえねえ、うさぎさんとくまさんとどっちがすき?」
部屋に駆け込んできた子どもが、ベッドに頬杖して訊ねた。

子どもは唐突にわけのわからない質問をするものだと、経験で覚えてしまった男は問い返した。
「おまえは ...

もう長いこと、ものを食べたいと思ったことはない。「なぜ私が兄なのだ」のろのろと匙を動かしながら、膝の上のトレーに置かれたシチューから意識を逸らすために、私は話をする。部屋を出て行こうとしていた女は、少しだけ瞳をきらめかせる。これは面白がって ...

女がアパートの前で誰かと立ち話をしている。下世話で五月蝿い喋り声は近所の主婦だ。       子どもと病気のご主人を抱えて大変ねえ       あなたまだ若いのにねえ赤の他人にそんなことを言われて、何故怒らないのか。出会ってから怒った顔を見 ...

いつもより随分遅い時間に戻ってきた女は酔っていた。自制出来ない人間は嫌いだ。だから酔っ払いは嫌いだ。狭い玄関を入ったところで、立てなくなっている女を見下ろして、子どもは途方に暮れている。「お母さん。風邪引いちゃうよ」「あら、あなたどうして起 ...

遠くでなにかが聞こえる。目を開けると、周りは薄闇だった。女はいつもベッドの下に、小さなライトをつけたままにしていく。なぜそうするのかは知らないが、別に構わない。少しの灯りがあると、夜は私を飲み込まない。声は女と子どもがいるダイニングから聞こ ...

生い立ちが、というのは勿論あるだろうけれど。
彼が辿ってきた道が険しいなんてものではなかったことも、わかっているけれど。

それにしたって、随分僻みの強い性格だ。

でもこの男、自分で言うほど人間が嫌いでは ...

物が落ちる音がして、それから泣き声がした。私はしばらく考えてから体を起こした。忌々しいこの体は、壊れているくせにいつまでも動く。子どもは保温ポットの湯を被り、狭い台所で体を丸めていた。女は毎朝出かける前、熱を発するすべてのものに、触れてはい ...

誰かがうずくまっていた。丸めた背中の大きさからして、かなり体格のいい男だ。マリューの住んでいる地区は、真ん中よりやや落ちる生活レベルの住人が多く、行き倒れを見かけることもたまにある。そういう人を見かけても、子どもにも近寄ってはいけないと教え ...

雨が降っていた。それも土砂降りの。傘を差しても、子どもと手をつないでいるほうの肩から先はずぶ濡れだ。子どもには黄色いレインコートを着せているから、風邪を引かせる心配はない。大丈夫。この子はマリューの命だ。この子がいなければ、別の生きる意味を ...

空になった小さな陶器を持ったまま、マリューは水平線を見つめた。気づくと波が腰の高さまで来ている。戻らなければ。そう思って振り向くと、子どもが追いかけてきていた。「お母さん」あ、と思う間もなく、波に足を取られて子どもはひっくり返り、マリューは ...

顔が近づいてきたので、キスくらいはいいかと思って好きにさせておいた。頭を押さえられて、舌を絡み取られて、段々抱え込まれるような格好になってきて、そこで私は体を捩る。「駄目よ。先生に言われたでしょ」そう。軍医は私もいる前ではっきりと、彼に「セ ...

マリューさんと子どもとラウのお話  2004-2006年

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「生体CPU」
新型モビルスーツのデータをチェックしていて、思わず眉をひそめた。
部品扱いということは、彼らには一切人間に対する配慮は必要ないということだ。
そういう研究がどこかで進められているとは聞いていた。 ...

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まず誰の秘書かというと、マリューさんの秘書です。
二十歳過ぎの金髪美人で、頭もよくて自信もあって、というタイプ。

マリューさんも仕事の面では信頼してますが、
まあ、若いコなので、ところどころ浅はかなのは、そ ...

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「なんだよーっ!」

家に入ったフラガの耳に飛び込んでくる子どもの声。
「またかよ」
と、呟きつつフラガがキッチンに入ると、
「買って買って買って! 買えよ、買えったら買えーっ!」
と、泣きわ ...

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少年の家にはいつもコーヒーがある。
一ヶ月に一回、箱に入ったのがどこからか届けられる。
少年が覚えている限り、欠かすことなく。

買っているのではない。
両親の友達が送ってくれるのだ。
母親に ...

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「なあ、マリュー。あれ、どこだっけー?」

キッチンでお昼の用意をしていたマリューが、エプロンで手を拭きつつ廊下に出てみると、普段開けない納戸の前に踏み台を引っ張ってきて、フラガがその上に座っていた。
「なあ、あれ。 ...

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「なにしてんの」
ソファに座って背中を丸めているマリューに覆い被さると、マリューは悲鳴を上げた。
「な、なにっ、ムウっ!?」
「なにって、なに驚いてんの。…で、それ、なに?」
マリューが膝に抱えているの ...

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鉄の門の間を抜け、黒い車が煉瓦を敷き詰めた道を走っていく。
車が止まったのは、かつてバナディーヤで彼が軍から与えられていたのと同じくらい立派な屋敷の前だった。

「いらっしゃい。アンディ」
出迎えるのはここの ...

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小さな手に指を近づけると、きゅっと握られた。
赤ん坊は金色の髪をしているが、角度によっては俺に、別の角度だとマリューに似ているように見えた。
遺伝子というのは本当に不思議だ。
儚いものへの無条件の慈しみのような ...