ほしいな
「なにしてんの」
ソファに座って背中を丸めているマリューに覆い被さると、マリューは悲鳴を上げた。
「な、なにっ、ムウっ!?」
「なにって、なに驚いてんの。…で、それ、なに?」
マリューが膝に抱えているのは、どうやら本。
ほかにもサイドテーブルの上に数冊。
タイトルを読み取ろうとしたフラガを押しのけて、マリューはそのすべてを膝と胸のあいだに挟んだ。
「なんで隠すのさ。仕事の資料、じゃねえよな、その反応だと」
「や、やめてっ! 片付けるから見ないでっ!」
「そんな言われたら、余計に見たくなるでしょーが」
うしろから抱きしめながら、耳にふっと息を吹きかける。
「ム、ムウっ!」
「っと、なにこれ?」
ばさばさっと床に散らばった本の一冊を拾い上げたフラガは、首を傾げた。
本のタイトルは
「あかちゃん ほしいな」
ほかにも見てみると、「こどもを持つための本」とか「不妊症は治る」とか「がんばれ子作り」などなど。
「…これ、全部買ったの?」
観念したのか、マリューはソファの背に顔を埋めて動かない。
「マリュー?」
今度はうなじに唇を押し付けると、またもやマリューは飛び跳ねた。
「…っっ!! 止めてったらっ、昼間っから! このあと会合が入ってるんですからっ!」
「で、マリューはそんな忙しい合間を縫って、なんでまたこんな本を読んでるわけさ」
「な、なんでって、だって」
「ひょっとして、プレッシャーになってる? 子どもがどうのって、俺が言ったの」
マリューが黙ってしまったので、フラガは顔をしかめた。
「マーリュー?」
「…でもやっぱり、子どももいたほうがいいでしょ」
結婚してから一月、そういう話をしてから三ヶ月経つ。
ふーん、とわざと適当に頷いて、フラガは片手で拾い上げた本のページをめくる。
「マリューはさ、ここ最近、こういうこと考えながらやってたんだ」
「は?」
なにを言われるかと身構えていたマリューの肩から、力が抜ける。
「だからさ。
排卵がどうのとか、着床がどうのとか、そういうこと考えながら俺とやってたんだ」
「…やるとかそういう言い方はやめて?」
「じゃあ言い直しますが。
マリューは俺とセックスしながら…」
「だーかーらっ! そういうコト言わないでっ!」
真っ赤になってフラガの口を押さえようとしたマリューは、逆にフラガに抱え込まれる。
「マリューは真面目だよなあ」
よしよし、と頭と背中を撫でられて、マリューの目元に涙がにじむ。
「俺はほんとに、マリューがいてくれたらそれでいいんだよ」
「私だってそうよ」
「じゃ、問題なしだ」
これはいらないよな、と勝手に本を片付けてしまうフラガに、マリューは苦笑した。
会合の時間だと迎えに来た秘書が、またか、という顔をして扉を閉めた。