子守り歌
遠くでなにかが聞こえる。 目を開けると、周りは薄闇だった。 女はいつもベッドの下に、小さなライトをつけたままにしていく。 なぜそうするのかは知らないが、別に構わない。 少しの灯りがあると、夜は私を飲み込まない。 声は女と子どもがいるダイニングから聞こえていた。 このアパートにはこの部屋と、ダイニングキッチンしかない。 足がふらついて倒れそうになりながら、ベッドを出た。 そっと扉を開けると、女がベッドの端に腰掛けていた。 俯く視線の先には、子どもがいる。 静かな歌声に守られて、眠っている。 気配を感じたのか、女は視線を上げた。 私を見て、小首を傾げる。 「どうしたの? あなたも眠れないの?」 私は扉を閉めた。 出来るだけ大きな音を立ててやりたかったのに、少し軋んだだけだった。 私はあの歌を知っている。 ずっと前に、一度だけ聞いたことがある。 あいつが お母さん に歌ってもらっていた。