同棲未満
「洗面所の歯ブラシ、なぜ二本あるのですか」
公演で海外と行き来している柊は、日本にいるときは鳳の暮らすマンションに滞在する。
荷物を置いて、うがいを済ませて戻ってきた柊が鳳に問うた。
「あ。あれは星谷の」 ...
合鍵
綾薙学園に入るまで星谷はそれほどミュージカルや映画を見てきたわけではなかった。もちろん本もたいして読んでない。
演じるためには知識がいると知ってからは努めて関心を持つように心がけてきたが、自主練と学校とで空いた時間はほとん ...
合鍵2
卒業してすぐ星谷はミュージカル俳優としてデビューが決まった。
綾薙祭が終わったあと、学園から大作ミュージカルの主演オーディションを受けるかと打診があり、数ヶ月のレッスンを経て挑み、合格したのだ。
元々希望していた大学進 ...
弾丸ツアー
「きみ、普通になったね」
客演に呼ばれた公演の初日のあと、鳳は綾薙時代から知っている評論家に声をかけられた。
「以前のきみはもっと異端の輝きを放っていた」
にっこり笑って受け流したが、翌日の新聞に同じことを書か ...
共演者
「星谷って中坊んときは複数の運動部の助っ人やってたんだろ?」
恋愛話から逃げ出そうとした星谷を、虎石が止めた。
「え、そうだけど」
「んじゃ、モテただろ」
「モテないよ」
「バレンタインにチョ ...
プロポーズ
「せんぱ〜い」
節をつけて即興で歌う星谷の声が、鳳のマンションのリビングに響いた。
「どこ行っちゃったんですか〜?」
家具が少なくて広い部屋なのでよく声が響く。
「やっぱり逃げちゃったんですね〜せん ...
プロポーズ2
「なにしてるんだい?」
控えの部屋で携帯端末を見ていた星谷に月皇遥斗が声をかけた。
「あ、すみません。遥斗さんのインタビュー、終わりました?」
次の舞台で共演することになったふたりは雑誌の企画でホテルに来て ...
プロポーズ3
星谷の輝きはほかの役者に影響を及ぼす。だいたいにおいて良い方向に。
星谷が求めている憧れの存在、尊敬する元指導者を演じていれば、星谷から過分な恵みを得ているといううしろめたさがいくらか薄れる。
そんなふうに思い出 ...
プロポーズ4
マンションの地下駐車場に車を入れ、星谷はサイドブレーキを引いた。
鳳がシートベルトを外してもドアのロックが解除されないので、自分で開けようとすると肩を掴まれた。
「触ります!」
律儀に予告するのと唇を塞が ...
周囲の反応1
鳳が柊と電話で話しているあいだ、星谷はリビングで片付けをしていた。
ここは鳳が綾凪在籍時から住んでいるマンションだが、ふたりで暮らせるところに移ることにした。
「ああ、そう。歌の練習ができる環境の物件がいい」
周囲の反応2
レストランの個室に、久しぶりに元チーム鳳のメンバーが揃った。
星谷が新しい住所を伝えたあと、
「オレ、ここで鳳先輩と一緒に暮らすことになったよ」
と言ったところ、全員微妙な顔をした。
「え…星谷く ...
不変のライバル
やあ、と辰己はまるで昨日綾薙の校門前で別れたかのように手を挙げた。
「ひっさしぶり! 変わらないね!」
「星谷は変わったんだよね。結婚おめでとう」
「え? えへへ。ありがとう」
なんで知ってんの? ...
肩甲骨
昼夜が逆転することも珍しくないので寝室の窓には遮光カーテンを使っているが、隙間から少し陽が差し込んできている。
目が覚めた星谷は何気なく顔の向きを変えて苦笑した。
鳳は星谷に背中を向けて眠っていた。
寝 ...
抱きしめたい
天花寺が袱紗のなかから取り出した大きな祝儀袋に、鳳は若干引いた。
「このたびはご結婚おめでとうございます」
「う……」
ホテル一階のコーヒーラウンジで人目を引くやり取りは避けたく、言葉を詰まらせる。
宝物をあげる
新居に引っ越したもののなかなか荷物の整理ができず、久しぶりにふたり揃って家で夕食を取ったあと、星谷が洗い物をしているあいだ鳳はリビングで積んだままの段ボール箱を開けていた。
「星谷。これ、おまえの?」
鳳が持ち上げ ...