肩甲骨
昼夜が逆転することも珍しくないので寝室の窓には遮光カーテンを使っているが、隙間から少し陽が差し込んできている。
目が覚めた星谷は何気なく顔の向きを変えて苦笑した。
鳳は星谷に背中を向けて眠っていた。
寝る前に言い合いをしたのだ。
たまには明るい部屋でしたい星谷と、絶対嫌な鳳で意見が食い違った。
結局星谷が折れて明かりは消して、することはしたのだが。
たぶん鳳は星谷が
「顔とか見たいじゃないですか!」
と何度も言ったので背中を向けているのだ。
鳳が星谷を好きな理由に見た目は関係ないのだろうが、星谷が鳳の好きなところをあげるとしたら造形はそのひとつだ。
コーヒーカップを持つ指がやたらと気になり
「先輩って爪の形まで綺麗ですね!」
と言ったところ
「そう? 普通じゃない?」
とだいぶ困った顔をさせたことがあったが、あれは確か星谷がまだ高校のときだ。
結構真剣に自分はいつから先輩のことが好きだったのだろうかと考えたりもしたが、思い出すのはそれは本当に尊敬とか憧れとかそういう感情だけからの言葉だったのか? というあれこればかりだった。
よくこんな自分に鳳は、先輩としてのスタンスでつきあい続けていたと思う。
「よいしょっと」
シーツに肘をついて、手で頭を支えて鳳の背中を鑑賞する。
シャツの布が薄いので、背中の形が浮かび出ていた。
「先輩は肩甲骨の窪みも素敵です」
小声で言って反応を待つと、しばらくして
「なに、それ」
と返事があった。声が笑っている。
星谷は鳳の背中に額を押し付けた。
「おはようございます。先輩」
「おはよ、星谷」
オレは今日も先輩が大好きです。