周囲の反応1

 鳳が柊と電話で話しているあいだ、星谷はリビングで片付けをしていた。
 ここは鳳が綾凪在籍時から住んでいるマンションだが、ふたりで暮らせるところに移ることにした。
「ああ、そう。歌の練習ができる環境の物件がいい」
 鳳がちょうどその話をしている。
 星谷は柊には鳳がマチュピチュに行っていたあのとき以来会っていないが、どうなりましたか? と連絡があったので、ありがとうございます、大丈夫です、とだけ返信してあった。
「え、あ、そう。……ありがとう。うん」
 鳳がちょっと恥ずかしそうにしていることから、星谷と付き合うことにしたのが伝わったのだろう。星谷に背中を向け、そのあとなにか説教をされているのか、生返事が続いている。
 ダンボール箱に映画のディスクを入れながら、ふふっと星谷は笑った。
「…え?」
 一瞬だけ鳳の声が怪訝な響きを帯びたが、すぐ元に戻った。
 なんだろうと星谷が思っているうちに、通話は終わった。
「星谷」
 背中を向けたまま呼びかけられる。
「はい?」
 手を止めて顔を上げると、鳳がゆっくり振り返った。とても綺麗な微笑みを浮かべながら。
「せんぱい どこいっちゃったんですか の歌ってなに?」
 星谷は喉の奥で、ひっ、と声を出す。
「そ、それはですね。えと」
「そういえばドライブのときワンフレーズだけ聴いた気がする」
「え、あ、いや、もう忘れちゃった、かなあ? あはは」
 鳳はさらににっこり笑った。
「歌って?」
 手を後ろにつきじりじりと退がりながら星谷は叫んだ。
「勘弁してくださーい! 柊せんぱーい! 言わないでって言ったのにー!」

プロポーズ, 星鳳

Posted by ありす南水