不変のライバル
やあ、と辰己はまるで昨日綾薙の校門前で別れたかのように手を挙げた。
「ひっさしぶり! 変わらないね!」
「星谷は変わったんだよね。結婚おめでとう」
「え? えへへ。ありがとう」
なんで知ってんの? と言いながら歩き出す。
「MS組同窓生全員知ってるよ」
「嘘! なんで!」
「来月チーム鳳のメンバーと会う約束してるだろ? あれ、全員来るから」
サプライズパーティ。と辰己はいたずらっ子のように笑った。
「言っちゃっていいの、それ」
「密告者は俺だって黙っていてくれると嬉しいな」
「それは、言わないけど。でも、なんで?」
「鳳先輩。逃がしてあげたほうがよくない?」
あー、と星谷は蹴り上げた自分の革靴のつま先を見た。
「そうかも。うん、そうだね」
チーム鳳のみんながお祝いしたいって、と伝えても微妙な顔をしたのだ。MS組全員となったら表面上どんな態度を取ったとしても、本音は嫌だろう。
「さすが、辰己。相変わらずいろいろわかってる」
すれ違った若い女性グループが振り返ってふたりの名前を口にしたが、ふたりとも気づかないふりをして足を止めない。
「もしかして辰己もオレと鳳先輩が前からつきあってると思ってた?」
「どうだろう。鳳先輩はおつきあいする相手としては、難しそうだなとは思っていたけど」
「そうなの?」
そうかも、と星谷は笑った。
「なんでこんなに時間かかったのか、今となったらわからないし」
「俺はわかるよ?」
「オレが鈍いから?」
それもあるけど、と今度は辰己が笑った。
「鳳先輩は星谷を変えてしまうのが怖かったんだと思うよ」
「変える?」
「君は太陽だからね」
少し考えてから星谷は言った。
「そういえば昔、卒業記念公演で共演したあともそんなこと言ってた、気がする。変わらなくて安心した、みたいなこと」
「うん。結果的には君は今回も全然変わってないみたいだけどね」
信号待ちで足を止め、星谷は辰己の顔を見た。
「変わらないよ。オレ。中二のときに綾薙祭で見た憧れの高校生のダンスが、オレの全部を変えたから」
信号が青になり、歩き出した星谷に一歩遅れて辰己も続く。
「それ、鳳先輩に言った?」
「言った」
「そしたら?」
「過去の自分を超えられないようで複雑な気持ちだって」
ふたりは声を合わせて笑った。
雑居ビルのエレベータに乗る。
「大丈夫? 星谷。やっぱり大変そうじゃない?」
「大丈夫。そういうとこも好きだから」
「ごちそうさま。じゃあ今日は星谷のおごりね」
「なんで!」
「のろけをいっぱい聞かされそうだから」
「ええー」
扉を開けてふたりはバーのなかへ消えていった。