副社長辞任(未完)
12月の米国出張で御堂が注文していた克哉のスーツは、1月の終わりに届いた。
新しいスーツに袖を通すときには御堂に着せてもらうのが習いで、ネクタイまで締めてもらってから克哉ははにかんだ。
御堂にとってどうなのかは知らない ...
(3)
佐伯君が福岡支社長に引導を渡していた。
克哉が客先から戻ると、そんな噂が社内に広がっていた。
喫茶店にいるところを見ていた者がいたらしい。
「佐伯さん。福岡支社長の頭からお冷をぶっかけて、誰が福岡支社なんかに行 ...
(2)
克哉がエレベータホールで御堂に追いついたとき、御堂は誰かと立ち話をしていた。
邪魔をしたかと謝りながら相手を確かめると、人事部長だった。
「構わない。話は終った」
同意を求めて御堂に顔を向けられた人事部長は、不 ...
番外 ~秘密の関係~ 一緒の意味(1)
それはまったく突然の人事だった。
人事部長の呼び出しを受けて戻ってきた克哉は、その後の業務でミスを連発した。
いつもは完璧な仕事ぶりゆえに余計に目立ち、具合でも悪いのではないかと心配する声が御堂の耳にまで届いた。 ...
(11)
“彼”が海外勤務を希望している、と聞いたのは、冬になってからだった。
情報通の女性社員によると、希望は次の人事異動で通る見込みだという。
「米国本社じゃないみたいだから、どうなのかしらね。その選 ...
(10)
陽射しを感じて目を開けると、カーテンが開いていた。
時計を見なくても、とっくに昼だ。
隣に御堂がいないのは、気配でわかる。
克哉は自分も起きようとしたが、限界ぎりぎりまで飲まされたアルコールと、そのあとのたがが ...
(9)
ポケットのなかで携帯が震えたので見ると、本多からのメールだった。
がんばれよ
短い内容に、克哉は微笑んだ。
今日の全社会議のことを本多に話したのは随分前だが、覚えていてくれたらしい。
「サンキュ、本多」 ...
(8)
翌日から”彼”はぴたりと一室へ来なくなった。
ほっとした、というのが克哉の正直なところだったが、取り仕切り役はふたりで協力しなければならないので、問題もあった。
メールをしても意図的と思える遅い ...
(7)
夏期休暇。御堂のマンションへの引越し。
克哉の夏は慌しく過ぎた。
「途中経過報告書はこれで完成としていい」
朝一番でメールで送っていた報告書について、執務室に呼び出された克哉は胸を撫で下ろした。
M ...
(6)
役員面々の前で行った所信演説は無事終わった。
固いところはあったが、それも初々しいと好意的に受け取られ、大隈専務も上機嫌だった。
専務室で御堂共々お褒めの言葉をいただいたあと、克哉は御堂より先に退室した。
「あ ...
(5)
「克哉、おまえ痩せたよな」
定食屋の向かい合わせで、克哉と本多は昼食を食べていた。
「そうかな。最近眠りが浅くって。そのせいかな」
「ほら、これやるから食え」
本多は自分の皿からトンカツを一切れ克哉の飯 ...
(4)
先に行ってくれ、と言われて、克哉はひとりで御堂のマンションに戻った。
戻った、と思わず思ってしまうくらいに、克哉はここに入り浸っている。
どこまで甘えていいのかわからず、三日に一度は自分のアパートに帰ろうとしているが、 ...
(3)
エレベータの前で、役員と出くわした。
御堂が克哉の視界を遮るように位置をずらせたのは、それが大隈と対立する派閥の主だからだ。
「やあ、御堂部長。新しいプロジェクトは順調なようだね」
御堂に続き克哉にもおざなりな ...
(2)
克哉のMGNへの引き抜きは、ありえない速さで進められた。
大隈は通常の手続きのいくつかの順番を入れ替え、強引且つ派手に克哉を迎え入れる準備を整えた。
プロトファイバーの成功が社内で注目されているこの時期が、その営業を担 ...