引越しにあたって、御堂は初めて克哉の部屋に入った。
送り迎えにアパートの前まで来ることはあったし、克哉が支度するあいだドアのなかで待つこともあったが、 なかに上がったことはこれまで一度もなかった。
玄関に立てば、室内す ...

すっかり「いつもの」となった週末、克哉は御堂のベッドで目を覚ました。
キングサイズの御堂のベッドは広いが、それでも男ふたりが寝ていて広々しているというわけではない。
ほんの少しでも動くと御堂に触れるし、だから迂闊に動け ...

今週は忙しすぎて週末のための食料の用意が出来なかった。
可能な限り外出しない、の原則を崩して、仕方なく御堂は買い物に出た。
ケータリングは便利だが、配達のタイミングによっては受け取るのが困難なときがある。
「オ ...

克哉がバスルームから出てくると、固定電話の呼び出しが留守電に切り替わるところだった。
「…私よ。ほんとにいないの? まあいいわ」
女の声だ。
「このあいだの話の返事よ。納得したわ。それじゃ、さようなら」

残業を終えてマンションに戻ると、窓辺に見慣れないものがあった。
申し訳程度の飾りがついた、ひょろりとした笹だ。
「あ、それはですね」
リビングで足を止めた御堂に気づいたのか、克哉がキッチンから出てきた。

ウェイターに案内された席で待っていたのは、 擦れ違ったら思わず振り返ってしまいそうな、派手な顔立ちの男性だった。
「遅れてすみません」
「五分なんか遅れたうちに入らないよ」
座ったら、と言われて席に着く。 ...

タクシーを降りると、ワインバーの前だった。
「どうした、行くぞ」
御堂からまったく説明を受けていない克哉は戸惑った。
御堂についてワインバーには何度か行っているが、この店には知り合ったばかりの頃連れてきてもらっ ...

シャワーを浴びてバスルームから出てくると、電話がなっていた。
「ああ、御堂。やっとつかまった」
かけてきたのは大学時代の友人だった。
「携帯はいつも留守電だから、たまには家のほうにかけてみようかと思いついてさ」 ...

御克

今何曜日の何時ですか、と問われたので、日曜の夜8時だと答えた。
「じゃあオレ、帰らないと」
シーツを握り締めて、のろのろと起き上がる克哉の肩を、御堂は軽く突き飛ばした。
元々力の入っていなかったからだは、呆気な ...

御克

火曜の夜は役員との懇親会、水曜の午後から支社に出張、木曜は戻ってからたまっていた決済業務を処理。
スケジュール帳に隙間があるのを嫌う御堂が、遅くまで分刻みの予定を恨めしく思ったのは初めてだ。
「明日、やっと会えるんです ...

目が覚めると、隣に佐伯克哉が眠っていた。
薄く唇を開け、長い睫毛を伏せた艶っぽい顔で。
前から気づいてはいたが、こうしてまじまじと見つめると、異国情緒漂う印象的な顔立ちだ。
ではあれは夢ではなかったのだ。 ...