まるごとカレー物語(上)
「具は鍋から引き上げて、出来るだけ小さく切って。一割くらいはそのまま残すのを忘れないように」
「はい」
「そのまま残したのは、別の鍋で茹でて火を通して」
「はい」
「切った野菜は俺に渡して」
「 ...
まるごとカレー物語(中)
佐伯克哉の顔も名前も、すっかり忘れていた。
彼が松浦が勤める伊勢島デパートに営業に訪れるまでは。
「オレもバレー部だったんですよ」
そう言われて、ああ、と気のない返事をしたが、ひとつ思い出すとずるずると思い出し ...
まるごとカレー物語(下)
「きれいになれるレトルトシリーズ第一弾 コラーゲンたっぷりまるごとカレー」は、本来のターゲット層である若い女性だけでなく、 美味しく低カロリーで残業後の食事に最適と、サラリーマン層にまで浸透して大ヒット商品となった。
まるごと ...
誰にも言えない
「駄目だ駄目だ、あーもうっ、どうしてそんなに駄目なんだっ!」
スタジオにディレクターの声が響いて、怒鳴られた二人は俯いたまま固まってしまった。
少年たちは来月プロトファイバーの新CMソングContrastをリリースする ...
誰にも言えない そのに
「乗っていくか」
本多に向けられた御堂の言葉に、克哉は耳を疑った。
本多はつい今まで克哉たちと一緒にMGNの関連会社で、一室の新商品に関わる打ち合わせに出席していた。
次の商談の時間が迫り本多が急いでいる理由が ...
歩いていこう
それはコーヒーブレイクでの会話だった。
合コンで知り合った女の子と海を見に行くと藤田が漏らしたのに、先輩社員達が喰らいついた。
「砂浜歩いて手をつないじゃったり?」
「夕日見ながらキスとかするんだ?」
歩いていこう 2
水族館に行きたい、と克哉が言い出したとき、御堂は少し嫌な顔をした。
「混むだろう」
「かもしれませんけど。せっかく出てきたんだし」
結局週末の激しく混んだ水族館で御堂は仏頂面を通すことになるのだが、我慢が限界に ...
禁断の一週間(前編)
今何曜日の何時ですか、と問われたので、日曜の夜8時だと答えた。
「じゃあオレ、帰らないと」
シーツを握り締めて、のろのろと起き上がる克哉の肩を、御堂は軽く突き飛ばした。
元々力の入っていなかったからだは、呆気な ...
禁断の一週間(後編)
火曜の夜は役員との懇親会、水曜の午後から支社に出張、木曜は戻ってからたまっていた決済業務を処理。
スケジュール帳に隙間があるのを嫌う御堂が、遅くまで分刻みの予定を恨めしく思ったのは初めてだ。
「明日、やっと会えるんです ...