「それで?」
目の前の女に、克哉は冷たい目を向けた。
「御堂さんと別れてください」
ピンクの口紅が艶やかな唇が舌足らずな言葉を紡ぎ、 それまでの話から結論はわかっていたのだが、克哉のこめかみはぴくりと動いた。 ...

「アジアンビューティー」
克哉が呟いたのを、太一は聞き逃さなかった。
「なんか言った? 克哉さん」
「あ、ううん。なんでもない」
「うっそ。なんか言った。間違いなく言った。克哉さん、俺に隠し事はなーし」 ...

「オレ、欲しいものがあるんですけど」
茶碗にご飯をよそいながら、克哉が言った。
克哉がこちらに来るとき持ってきた炊飯器は今、御堂の部屋で大活躍している。
ほかにも米、味噌に始まり茶碗、汁椀などもすべて克哉が渡米 ...

いつもよりずっと早くアパートに帰ってきて、克哉はスーツも脱がずに机の上に乗せたものをじっと見ていた。
今日は一日事務仕事をしていたが、少しだけオフィスを抜けて受け取ってきた、それはパスポートだった。
隣には封筒に入れら ...

金曜の夜本多は佐伯克哉のアパートへ向かっていた。
克哉は今日は一日内勤だったので、もう帰っている時間だろう。
約束を取り付けない訪問は、このところ元気のなかった克哉を驚かせ、気分を変えさせてやろうという気持ちからだった ...