限りなく近い
「限りなく恋だと思うんだよね」
「なにが」
「ティエリアのロックオン…えーと、先代の、への感情」
デリカシーに欠けるにもほどがあるアレルヤの表現だが、聞いているのが刹那なのであまり問題はない。
「実は四年前の終わりのほうからそう思ってたんだけど、あの頃事態が深刻で、そんなこと言える空気じゃなかったから」
「今も事態は深刻だが。尤もおまえの周りだけお花畑が広がっているな」
「うん。マリィという名のね」
幸せな男には嫌味すら通じない。
まあそれはそれでよい、と刹那は思う。
自分たちはいずれ罰を受けるべきテロリストで、ここは軍艦のなかで、いつ死んでも不思議でない状況でも、今手の中にある幸せをそっと握り締めて悪いはずがない。
「ティエリア、絶対気づいてないよね、自分の気持ち。
気づかせてあげたほうがいいのかなあ」
「ニール・ディランディはもういないのにか」
「いるんじゃないのかな。ティエリアのなかには」
アレルヤらしいポエムだ。
「実はどこかで生きてたりとかあればね、ロックオン。
刹那だって死んだと思われてたのに生きてたんだし、可能性はゼロじゃない」
「頭のなかまでお花畑になってきたな、アレルヤ・ハプティズム」
「ひどいな。そうだったらいいな、って話だよ」
「そうしてティエリアに告白でもさせるのか」
「ていうか、意外に戻ってきたら気持ちが冷めたりしてね」
ハレルヤはもういない、と言っていたが、悪意が一切なさそうなところがアレルヤのままで充分鬼だ。
「恋などと言われてもぴんとこない。
ただロックオン・ストラトスの死がティエリアに大きな影響を与えたのはわかる」
「せつないよね」
そこだけしんみりとアレルヤは呟いた。
幼い思いは現実に受け止めるか拒絶するかしてくれる相手がいれば、ひとつのステップとして次なる道を開いていくが、 ティエリアの思いは永遠に宙に浮いたまま、花開くことも砕けることもなく彼のなかで抱えられている。
それをせつないと思わないのは、おそらく本人だけだ。