いったいないが!?
ロックオンはベッドの前で立ち竦んでいた。
目の前にあるのは、ただのベッドではない。
天蓋付きの、一体何人寝られるんだという広さの、その昔この地方でマハラジャと呼ばれた男が使っていたというベッドだ。
絶倫じゃないと大王なんかになれないんだなあ、と、そんな感想はこの際どうでもよく。
彼の足を毛足の長い絨毯に縫い付けているのは、その真ん中で頬を寄せるようにして眠っている、よく知るふたりだ。
「ロックオン、なにやってるの」
「うわっ!」
いつもの黒のピタTに、コットンのエプロンをつけたアレルヤに後ろから声をかけられて、ロックオンは飛び上がり、 眠っているふたりを起こしてしまうと、慌てて口を押さえた。
「なに? あー、これは可愛いね!」
アレルヤはロックオンを押しのけて、ベッドを覗き込んだ。
刹那とティエリアは頭を近づけ、軽く折り曲げた足はそれぞれ反対側を向けていた。
ティエリアの手に折り畳まれた眼鏡が握られているので、偶然こういう格好になったのではないのだろう。
ロックオンは声を絞り出した。
「俺らが晩飯作ってるあいだに、なにがあったんだ…?」
ミッションのために王留美が用意したのは豪華な別荘だったが、 なぜか食事は自炊で、ロックオンとアレルヤは料理人が百人くらい働けそうな台所でちんまりとカレーを作った。
調理の邪魔にしかならない刹那とティエリアに、お屋敷探検してきな、と放り出したものの、 刺々しい喧嘩でもしてたら面倒だな、とロックオンは思っていた。
思っていたら、仲良くお休みになっていたというわけだ。
ふたりともえらく生真面目な顔で寝息を立てているが、元が可愛い造りの顔立ちなので、愛らしいことこの上ない。
「兄弟みたいだねえ」
楽しそうに言ったアレルヤは、ポケットから端末を取り出してパシャリと写真を撮った。
「おまえ…バレたらえらいことだぞ」
「バレなきゃ大丈夫」
「俺にもコピーさせてくれ」
「オーライ」
画像チェックをしながらアレルヤは満足げに頷いた。
「僕思うんだけどさ、ロックオン。
マイスターには天使がいるよね」
頭大丈夫か、とロックオンは言おうとしたが、いないとも言い切れない、と、すやすやと眠るふたりのマイスターを見て思ったので言いそびれた。