彼にとっての
トレーニングルームはラッセ・アイオンの部屋みたいなものだ。
入っていくと、やはりいた。
「珍しいな、ロックオン」
「さすがに一週間もミッションなしじゃあな」
体がなまって気持ち悪いし、急な出撃のときベストコンディションでないのは困る。
さっきまで刹那がいたぜ、とラッセがバーベルを持ち上げたままで言う。
あいつも真面目だからなあ、と答えながら、さて、どのマシンを使うか、と思案していると、扉が開いてアレルヤが顔を覗かせた。
「ロックオン、ここだったんだ」
笑顔を向けられ、俺は内心苦笑する。
「なんか用か?」
そうなんだ、とアレルヤは頷いた。
「僕、まずいこと言っちゃったみたいで、ティエリアが口きいてくれなくなっちゃって」
「またか」
そうなんだ、とまたアレルヤは頷き、それで、と続ける。
「あとで様子を見に行ってもらえると助かるんだけど。
次のミッションまでに機嫌直してもらわないと困るし」
ティエリアを怒らせるのはわりと簡単で、それを何度もやっているアレルヤは、わざとなんじゃないかと、密かに思う。
「オーライ。フォローしとく。
おまえの代わりに俺がけちょんけちょんに言われるだけだがな」
「そんなことないよ。ティエリアはロックオンには若干控えめだから」
「若干ねえ」
じゃあ頼んだよ、とアレルヤは笑顔のまま姿を消した。
害のなさそうなあの笑みは、アレルヤが対外的に顔に貼り付けているもので、 それを言ったらお互いさまなのだろうが、胡散臭いことこの上ない。
「大変だねえ、年長者」
いつまでそうしているのか、バーベルを持ち上げたままのラッセが笑っていた。
「ああ、まったく」
俺もまた白々しい表情を作る。
この男からは、俺のよく知ったきな臭い世界の気配がする。
ここに集まっているのは傷を抱えた、それでも希望にすがらずにはいられない屑か、 非合法組織で純粋培養された生まれついてのはぐれ者だ。
ろくでもない生き方をしてきた俺が、流れ着いた果ての掃き溜め。
それが俺にとってのソレスタルビーイングだ。