Others 8
今度は手を離さない
どんなときもあなたの傍に
あんまり久し振りだったので、どちらも緊張した。
数えてみると、一緒にいた時間より離れていた時間のほうが長くて、そのことに気づいたふたりは笑い合った。
マリューはフラガの体に残る傷跡を、初めて目にした。
メンデルで受けた傷は、あとの傷に隠れてしまい、すっかりわからなくなってしまっていた。
顔とかね、まあ、差し障りのある部分は綺麗にしたんだけど。全身となると大掛かりだし。
痛まない?
普通に生活出来てるだろ?
それは痛まないという意味ではなかった。
マリューは指でそっと跡を撫でた。
大丈夫だよ。ちゃんとこういうことは出来るから。
馬鹿。
私のほうこそ、あちこち怪我のあとだらけ。
なかなか凄みがあって、魅力的だと。
じゃあ、消さなくていい?
いいよ。また手術とかしたら、体力が落ちる。
開け放した窓から、生温い空気が流れ込んでくる。
湿り気を帯びた南国の夜の気配。
こういうふうにすると、どこか痛いか?
…大丈夫よ。
背中に腕をまわして。…こう?
マリュー、かなり痩せてるよ。
…そう?
胸の感触が違う。
……。
いや、俺はどっちでもいいんだけどね。胸については。
…そうかしら。
…怒った?
マリューはフラガの頭を引き寄せ、唇を合わせた。
お喋りはここまでにしましょうよ。ムウ。
…そうだな。
金は際限なく必要だった。
営利を目的としない福祉事業は、アル・ダ・フラガの遺した金をあっという間に食い尽くし、資金の確保を図らなければ、活動を続けていけなかった。
軍人上がりの男が、一見際どい投資を次々と成功させていくのに、経済界は最初驚愕したが、彼がアル・ダ・フラガの息子であるとわかり納得した。
事業が軌道に乗ると、様々な集まりから声がかかるようになったが、ムウ・ラ・フラガは一切顔を出さず、公の仕事のすべてはマリュー・ラミアスがこなした。
彼らは富を得ようとしたわけではなかったが、事業の規模が大きくなるにつれ、扱う数字も大きくなった。
羨む人は大勢いたが、彼らが本当に望む生活を知る人は少なかった。