ロマンチスト
ガエリオは意外に本を読み、特に物語を好む。
正義感溢れる主人公の愛と勇気と希望に溢れる冒険の話だ。
ボードウィンは武の家柄だそうなので、自分を重ねているのだろう。
「早く大人になってモビルスーツに乗って宇宙を駆け巡りたいなあ」
遠くを見ながらそう言うガエリオに、マクギリスは特になにも言わなかった。
ガエリオにとっては死すらも誇りある美しいことなのだ。
「そのときはおまえも一緒だ」
きらきらした目で見つめられて、マクギリスはうんとも嫌とも言えなかった。
パーティの喧騒を避けて目立たない場所にいると、ガエリオがやってきた。
左頬が赤い。
「女ってなんで最後に引っ叩いていくんだ?」
「相手がおまえだからだろ」
笑いを噛み殺しながらマクギリスは言った。
騎士物語に姫君との恋愛は付き物だが、それほど本気なわけでもないのでガエリオはすぐ飽きて、それが相手に伝わって必ずこうなる。
「おまえはなんでこんなところにいるんだ」
「めんどくさい」
「またそれか。適当に相槌打ってたら女がついてくるくせに」
「まあな」
ぬけぬけと言ってもガエリオは気にしなかった。
「あー、俺も女はめんどくさくなってきた」
「おまえは雑なだけだ。あと、気の強い女を選びすぎだ」
「俺はおしとやかな女しか選んでないぞ」
「見かけはな」
他愛ない会話を続けていると、ガエリオが見つめてきた。
「おまえでいい気がしてきた」
「なにがだ」
「おまえが恋人ならいろいろ問題なさそうだ」
「酔ってるな」
「本気だ」
顔を寄せてくるのを手のひらで押しのけた。
たった今女にふられてきたやつがなにをしているのか。
「おまえとなら夢を共有できるし、気心も知れてるし、いいだろ、な」
「俺を口説こうとするな」
「いいな、それ。すぐ手に入るものなどつまらない」
マクギリスは天井を仰ぎ見た。
この酔っぱらいをどうしようか。
酒の匂いなどまったくしないが。
ガエリオは根本的なことを忘れている。マクギリスは姫君ではない。