ラッキースケベ
雑誌を見ていて週末行ってみたい店があり、なあ、と顔を上げると、唇がマクギリスの額をかすった。
ふたりしてベッドに寝転がり、同じページを見ていたのだった。
「なんだ」
「ここ、行かないか?」
言ったあと、中途半端に触れたのが気になり額に唇を押しつけ直した。
マクギリスの伏せた睫毛が長い。
キスなどしたこともない、しようとも思ったこともない子供の頃から、ガエリオはマクギリスと友達で、こうやって本を覗き込み、話しかける弾みで動いてよく頭と頭をぶつけた。
そういえば、と思い出す。
最初に意識したのも、何気なく見上げたときに唇がとても近く、なぜだかそこに触れたくてたまらなくなったからだ。次の瞬間には触れていた。唇で。
そのあとガエリオは、友達とは別の意味でマクギリスが好きなのだと気づいた。
舌を絡めあって首筋を舐めて、さすがにまだ日が高いしこのあと授業に出るのでそこでやめた。
「おまえさあ。人と距離近すぎるんだよ。しょっちゅう顔、ぶつけそうになるから気をつけろ」
組み敷く形で見下ろしたマクギリスは、ゆっくり瞬きした。
「わざと」
「は?」
「わざとに決まってるだろ。人と、じゃなくて、おまえとの距離を近くしている」
レポートでも読み上げるような特に抑揚のない声と表情を、ガエリオはじっと見た。
じわじわと意味を理解して、血が沸騰しそうになる。
偶然で、ラッキーなのだと思っていた。
「え? いつから? いつから、わざと?」
調子に乗って聞くと、マクギリスはめくれ上がったTシャツの裾を引っ張りながら立ち上がって言った。
「さあ?」