梅雨
講義に遅れてくる学生は珍しくないが、それが水も滴る美青年であれば話は別だ。
頭を振って水滴を払ったあと、寝坊しましたと遅刻の理由を告げたマクギリスに、学生たち同様見惚れていた教授が我に返り着席するよう指示する。
マクギリスは階段教室を登ってガエリオの隣に座った。
「おまえなんでそんなに濡れてんの」
ガエリオはハンカチを差し出しながら、湿ったTシャツをからだに貼りつかせているマクギリスに聞く。
「降ってきた」
「そりゃ降るだろう。降水確率百パーセントだ」
梅雨のさなかで、窓の外には紫陽花が満開だ。
講義が終わると女子学生たちが寄ってきた。
元々マクギリスに興味を持っていたが、きっかけを待っていた娘たちだ。
「よかったらランチを一緒しない?」
マクギリスがなにも言わずうしろに下がるので、俺に隠れるなよと思いつつ、ガエリオがごめんねと謝った。
「ねえねえ、今の彼もよく見たらカッコよかった」
よく見たらじゃない、聞こえてるし、と女の子たちの背中にツッこむが、マクギリスの隣にいれば誰でも印象が霞む。
そんなことより、
「おまえ、朝食食べてないだろ」
「起きたらおまえはいないし、食べるものはないし」
「何度も起こした。キッチンにパンあっただろ」
首を傾げるマクギリスは、頭と顔はいいが日常生活を送るのに必要な能力がいくつか欠如している。
学食に行こうと並んだガエリオは、マクギリスのTシャツの襟元が緩く開いていて奥が見えることに気づいてぎょっとした。
慌てて羽織っているシャツを脱ぐ。
「着ろ」
「いらない」
「着ろって。夕べの跡がついてる」
マクギリスは心当たりのあるあたりに手をあて、ああ、とつまらなさそうに呟いてから
「別にいい」
と言う。
「よくない」
無理矢理袖を通させて、前のボタンを留める。
「やめてくれ。隙だらけだぞ、おまえ」
「跡をつけたのはおまえだろ」
「だからやめてくれって言ってんだろ」
雨音の聞こえる人気のない通路で、ガエリオはマクギリスに素早くキスをした。