(6)くだらない

 予告しないで訊ねると、白いシャツにスラックスを着たマクギリスは極めつけに嫌な顔をしたが、それでもラスタルをなかに入れた。
 司令服のラスタルは目立つので人目につきたくないのと、この住居はそのラスタルが買ってやったものだからだ。この前会ったとき、部屋番号まで指定して欲しいと言ったので、その後マクギリス名義の権利書を送ってやった。
 若い者の部屋らしく片付いていなければ笑ってやろうと思っていたのだが、予想は覆された。
 綺麗にしている。というより、なにもない。
 リビングにあたる部屋は家具ひとつないがらんどうだし、ダイニングにはテーブルはあるが椅子がない。キッチンも使われている様子がなく、辛うじて生活臭がするのは仕事に浸かっているらしい端末がある部屋だけだった。
「ちょっと待て。君はどこで寝ているんだ」
示されたのは、畳まれた毛布だ。こめかみのあたりを指で押さえたラスタルだったが、ふと気づいた。小さいが本棚があり、紙の本が並んでいる。
なるほど、らしい。
 空っぽの部屋の真ん中で押し倒すと、背中に腕がまわってきた。それ以外にすることはないが、無理強いのような背徳感だ。
 シャツのボタンをはずしていくうち、肌に鬱血の跡を見つけてラスタルは顔をしかめた。情事の印をつけられるのは、彼の所有者たるファリド公の特権だ。
 だがファリド公は少し前から新しい少年を連れ歩いている。これによりマクギリスは放逐されるかと思われたが、そんなこともなく、逆に跡取りであることが確証された形となった。
 それでも、まだ続いているのか。
 愛撫の止まった理由を察したマクギリスが、面倒臭そうに足を絡めて下半身を押しつけてきた。
彼にとっては義父もラスタルも変わりないだろう。ラスタルとて一時的に情が湧くだけで、特になにをしてやるつもりはない。時折こうやって戯れるだけだ。
ぎりぎり跡がつかない強さで首筋に噛みつくと、甘い声が上がった。
「本気でよがれ」
「貴方次第では?」
 舐めた言葉を紡ぐ口を口で塞いだ。

 後日、家財道具一式が届いた。
マクギリスはエリオン公に買わせたこの部屋にいつもいるわけではなく、一時的でも義父の目の届かないところにいたいと思うときに使っているだけなので、こんなものは必要ない。
なくても困らないものを施されても、感謝の気持ちなど湧かない。
寝室ということにされたらしい部屋に設置されたベッドを、冷めた目で眺めたが、毎回床の上というのもからだが痛いので、あっても悪くはない。
当然のように、エリオン公がまた来るものだと思っている自分にマクギリスは気づいた。まあ、来るのだろうが。
気に入られるようには振る舞っている。
 ああいう男を好きだと錯覚すれば、少しはいろいろ楽になるのだろうか。
 マクギリスはひとりで笑った。
 くだらない。

ラスマク

Posted by ありす南水