(4)たわむれ
「好きな男の名を呼んでいいぞ」
そう言うと、服を脱ぎかけていたマクギリスは胡乱気にラスタルを見た。
「なんの趣向です?」
「なに、私も君が私を好んで相手をしていると思っているわけではない。たまには楽しんでもらおうかと思っただけだ」
行為の最中に別の男の名を呼ぶのが楽しむことになるのか、そのへんの胡散臭さを無視して笑顔を向ける。上半身裸になったマクギリスは、ラスタルのネッカチーフに指をかけて顔を近づけた。
「エリオン公も、妙なご趣味がおありで」
「お気に召さないかな?」
マクギリスは、ふっ、と息だけで笑った。
「それでは遠慮なく」
「ガ、エリオ…っ」
突き上げた瞬間、マクギリスが口にしたのは予想通りの名前だった。
マクギリスが唯一親しい同年代の、おそらくからだの関係のない友人。
近頃は遠ざけていることをラスタルは知っていた。互いに子どもでなくなり、いかに向こうが鷹揚とはいえ、マクギリスの生活がどういうものか、近くにいすぎると透けて見える。
「ガエリオ…ガエリオっ」
呼べばいいとは言ったが、これほど連呼されるとは思わなかった。
マクギリスは通常の思考と行為の最中を切り離していて、そのあいだにしたこと言ったことに関しては終わったあとはなかったものとして振る舞う。セックスとはそういうものだが、スイッチの切り替えのようにそうする。
しかし普段秘めている男の名を、こうもあからさまに呼び続けるとは。
ラスタルはむしろ興奮した。
ガエリオ・ボードウィンにおそらく脈はない。あれは同性には性的興味を持たないタイプだ。
マクギリスが全力で籠絡にかかれば落ちないこともないだろうが、事実そうやってマクギリスに狂わされた男もいるが、友人という体裁を取り続けている相手にそういうことをやる気はないのだろう。
存外いじらしいことだ。
気のせいか上気した顔がいつもより艶っぽい。この子は自分が好ましく思う相手と、したことがあるのだろうか。
容姿を買われてファリドに招かれたマクギリスにとって、これは手段でしかない。情に溺れると足元を掬われる。
耳の後ろに唇を這わせ、囁く。
「ひとりでするときも、そんなふうに名を呼ぶのか?」
夢から醒めるようにゆっくりと瞳の焦点を合わせ、マクギリスは微笑んだ。
「ひとりではしません。必要がないので」
「なるほど」
己で処理しないとならないほど、あいだが空くことがないわけだ。
しばしの夢に浸るためかマクギリスは目を閉じ、薄く開いた唇に、ラスタルは食らいつくようにくちづけた。