(10)
マクギリス14歳くらい
頼まれていた書類を作ってオルガの端末に送ったマクギリスは椅子から立ち上がった。
「待て。どこに行く」
「格納庫」
「なにをしに」
「バルバトスの整備」
事務所を飛び出す体勢になっているマクギリスを、オルガは睨んだ。
「マクギリス。時間があるなら経営の勉強をしろ」
マクギリスは口をへの字に曲げた。
「なんだ、その顔は」
「俺、バルバトスの整備がしたいんだけど」
「それは整備班に任せておけばいい」
「ちょっと、団長」
割って入ったのはいつの間にか事務所の入り口にいたヤマギだった。すたすたと歩いて守るようにマクギリスに背を向け、オルガに向き合う。
「前から思ってたけど、団長はどうしてマクギリスが整備士になりたがるのを嫌がるの」
「ど、どうしてって、そりゃおまえ」
ヤマギは普段直接オルガに物申すことなどないので、かえってオルガはしどろもどろになった。
「もしかして、整備の仕事を軽く見てる?」
「い、いや、決してそんなことは」
ヤマギは腰に手をあてて顎を少し上げた。
「だったらこの子の将来の選択肢のひとつとして、整備を考えてもいいんじゃない」
「いや、それは」
「経営の勉強だってちゃんと学校でやってきたんだし、今だって言われた仕事はこなしたんだろ?」
マクギリスは何度も頷いた。
「じゃあ行こう。来るって言った時間に来ないから迎えに来たんだ」
とっくにヤマギの身長を追い越したマクギリスがカルガモの子どものようについていくのを、オルガは止めることができなかった。
通路を歩きながらヤマギは言う。
「おまえは覚えてる? ちっちゃいおまえが最初に字を読んで見せたのは、モビルスーツの取り扱い説明書だったんだよ」
「覚えてない」
「みんなの前でバルバトスを整備する人になるって言った。整備の仕事がやりたいなんて、なかなか見どころがあるなって思ったんだ」
「そうなんだ」
素っ気なく答えているが、マクギリスの口元は笑っていたし、足取りは軽かった。
「おーい、オルガ。あれ? どうした?」
事務所に入ってきたシノが頭を落としているオルガに声をかけた。
「なんでもねえ…いや、シノか」
「うん?」
「ヤマギは、怖いな」
「ああ?」
片方の眉だけ上げたシノはすぐに笑った。
「ああ。ヤマギは怖ええぜ」