(9)

 アルミリアがマクギリスにパーティのパートナーになってほしいと頼むと、俺、そういうのめんどくさいからと断られた。
「お、女の子はみんな男の子と一緒に行くのよ。マッキーは私がほかの男の子と行ってもいいの?」
 食い下がると、非常に嫌そうな顔をされたが了承された。
「ボディーガードならともかく、俺をパートナーにするのはやめといたほうがいいと思うけど」
「どうして」
「お金持ちの子の集まりだろ? 言われるよ、いろいろと」
 アルミリアは急に不安になった。
「マッキーは、嫌?」
 マクギリスはアルミリアを見返した。
「俺は別に。慣れてるし」
「慣れてるの?」
 吃驚して大きな声を出してしまった。なにか言いたそうな、問いたそうな目で見つめられたあと、マクギリスはふっと笑った。
「俺は、君が嫌じゃないならいいよ」

 良家の子女の集まる昼間のパーティは将来の結婚相手を探す場でもあり、彼らがやがて出入りする社交界に慣れる場でもある。
 マクギリスは騒がれて得意になるタイプではなく、外見が人目を引くのが心の底から厭わしそうだった。誘ったことを少し後悔したアルミリアがさらに落ち込んだのは、聞こえるように悪口を言う人が結構いたからだ。
 捨てられていた子で素性がわからないとか、親はきっとろくでもない人間なのだろうとか、人のいいアルミリアの父に取り入ったとか。
「助けてもらったとか言ってるらしいけど、本当は誘拐ってあいつが仕組んだんじゃないの?」
 思わず頭に血が昇ってからだが動いたのを、マクギリスが手をつないで引っ張った。
「取り合うな」
「でも」
「なにか飲もう。あっちへ」
 マクギリスは掌にアルミリアの手を乗せた。普段の男の子っぽいふるまいに比べ、今日の彼は洗練されていて隙がない。
「ごめんなさい」
「なにが?」
「嫌だって言ったのに無理やり誘って」
 マクギリスは通路の途中で足を止めて、アルミリアに向き直った。
 今日の彼は白いシャツにノーネクタイでジャケットだ。とても良く似合っている。
「前にも言ったけど、俺は慣れてるから。それより俺といるとずっとこんなふうだよ。君こそ嫌にならない?」
「なにを?」
 背伸びすると、マクギリスは真面目な顔で言った。
「あんなふうに言われる俺を。とばっちりで君も悪く言われる」
そんなの間違っているのはそんなこと言う人たちだから! そう思いながら叫んだ。
「私、あなたが大好き!」
 思いのほか声が反響してしまい、アルミリアは赤面したが、マクギリスは優しく笑った。
 ダンスホールから音楽が流れてくる。
「どうせならついでにもっと目立とう」
 アルミリアの手を引き、ダンスホールへの扉を開けた。
「踊りましょう、レディ」

「指輪って作れる?」
 食堂で昼食を取っていたライドの隣の席にトレーを置いて、マクギリスは椅子を引きながら訊ねた。
「指輪? なにすんだ」
「あげようと思って」
 あー、とライドはカリフラワーの酢漬けを口に入れた。
 マクギリスがお嬢さんとつきあいだしてこれが結構本気らしく、このまま行けばお嬢さんが学校を卒業したら結婚するのではと、団員のあいだで密かに賭けが行われているのだが、するほうに賭けておいてよかったとライドは思った。
「買えば? アトラかクーデリアについてってもらって」
「俺しかあげられないのがいい」
 さすが三日月についてまわって育っただけあって、女の扱いのツボを心得ている。
「指輪かあ。作ったことないけど。作れないことはない。と、思う。どんなのがいいんだ?」
「え? さあ」
「さあ、じゃねえよ! そのくらいイメージしろよ」
 マクギリスはポレンタにスプーンを突っ込んで、首を傾げた。
「指が細いから華奢なのがいいと思う」
「ほうほう。石とかは?」
「石?」
「みんなが結婚するときに見ただろ? 石のついた指輪」
 マクギリスは、あー、と思い出すような目をした。
「今回のはそういうのじゃなくて、銀色のだけなのがいい」
「金色もあるけど、銀色がいいんだな?」
 今回と来たか、と思いつつ、ライドは早速頭のなかでデザインを浮かべ始めた。
「おまえが嫁さんもらったら、いよいよ本格的に二代目団長って感じになるなあ」
 ライドは何気なく言ったのだが、マクギリスはスプーンをトレーに置いた。
「それってさあ」
「うん?」
「前から思ってたけど、なんで俺なの? オルガまだ若いし、自分の子どもが継げばいいだろ」
「それがおまえじゃん」
「違うだろ」
 マクギリスが特に拗ねるでも卑下した様子でもなく否定する。ライドも食べるのを止めず、普通に続けた。
「おまえなんだよ。おまえは鉄華団の子どもだから。あとな。おまえじゃないと揉めるんだよ」
「なんで」
「うちは団長と年長組幹部で立ち上げたんだ。誰かの子を継がせるってなったら、誰の子にするかどうやって決めるんだ?」
 マクギリスは再びスプーンを持った。
「くじでもしたら?」
「馬鹿言え」
「俺はバルバトスの整備をやりたいんだけど」
「それもやりゃいいし。言っても団長もまだまだ引退しねえよ。おまえ、頭いいしなんでも出来るし、ほんといい拾いものだった。おまえはうちに拾われたのが運のつきかもしれないけど」
「俺はここんちの子になれて幸運だったと思ってる」
 随分デカくなり生意気になったが、可愛いことを言う鉄華団の養い子の頭を、ライドは腕を伸ばして撫でた。

鉄華団の秘蔵っ子

Posted by ありす南水