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【マクギリスだいたい十一歳】
「あれ? そういや今日マクギリスは?」
武器庫の棚卸をしていたユージンが、誰にともなく訊いた。
「今日は学校が休みだから、まだ寝てる」
チェックリストに入力している三日月が答えた。
十一歳になったマクギリスは、クリュセの大学に通っていた。
クーデリア・藍那・バーンスタイン以来の天才と大歓迎されているが、クリュセは通うには些か遠い。教授の家に下宿することを勧められたが、みんなと離れるのは絶対に嫌だとマクギリスが言い張ったため、片道数時間かけて毎日誰かが送り迎えしている。余計な仕事を増やしやがって、と言いつつ、みんな赤ん坊の頃から世話を焼いているチビがよそに取られるのは嫌なのだった。
「相変わらずよく寝るよね」
「もう日は高いぞ」
タカキとアストンが笑い合う。
「寝る子は育つって言うし、あいつも大きくなるな」
「腹が減ったら起きてくるだろ」
チャドとダンテも気に留めない和やかな空気に、ビスケットが帽子を被り直した。
「ちょっとみんな。マクギリスを甘やかしすぎじゃない?」
全員がビスケットを見た。
「毎日学校に通って、夜はうちの手伝いもしているから頑張ってるのはわかってるけど、休みの日はもっと規則正しい生活をさせるべきだ。僕たちにはあの子を立派な大人に育てる責任があるんだよ」
おおー、と誰ともなしに拍手が沸き起こった。
ちょっと起こしてくる。
と武器庫を出て行ったビスケットは、しばらくして戻ってきた。
「あれ? マクギリスは」
ビスケットはにやにやしながら帽子を取って、くしゃりと手のなかで潰した。
「眠ってる顔が赤ちゃんのときと同じで可愛くって、つい数分眺めちゃったよ」
起こせなかったらしい。
なんとなく予期していた全員は、黙って仕事に戻った。