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【マクギリス だいたい二歳】
昌弘が資材のチェックをしていると、足元に気配を感じ、見ると、昌弘の膝くらいの身長のマクギリスがいた。結構勾配のきつい長い階段を、難なくマクギリスは登る。
「兄ちゃーん。またマクギリスがひとりで階段登ってきたー」
離れたところにいる昭弘を呼ぶ。
「またか。今日の子守り当番は誰だ」
抱えていた箱を置いて、昭弘が来た。
「悪い、昭弘。こっちに寄越して」
吹き抜けになっている階下から、今日の子守当番が呼びかけた。
「三日月か。目ぇ、離すなよ。なにかあったらどうするんだ」
「ゴメン」
マクギリスを抱き上げた昭弘は、そのままぽーんと下に向かって投げ、それを三日月がキャッチした。
「おまえ、勝手に動くなよな」
脇の下に手を入れ直して顔を突き合わせて三日月が言ったのと同時に、ばさりとなにかが床に落ちる音がして、振り向くと後ろにメリビットがいた。
「あ。お疲れ。今日、来る日だったっけ」
メリビットは業務提携先のテイワズから、定期的に会計補助に来る女性だ。
「な、な、な、今、なんてことを、あなたたち!」
青い顔で声を震わせるメリビットに、三日月は首を傾げた。
「投げたでしょう! マクギリスを! 子どもを! ボールみたいに!」
ああ、と三日月は頷いた。
「落とさないから大丈夫」
「そんな問題ではありません! マクギリスの心の傷になったらどうするんですか!」
「は?」
三日月はまた首を傾げて、マクギリスをメリビットの前に突きつけた。メリビットと目が合ったマクギリスは、おもむろににっこり笑い、天使のような笑顔にメリビットは毒気を抜かれた。
「大丈夫。こいつ、肝が据わってるから」
「え、ええ」
うっかり頷いたメリビットに、三日月はマクギリスを渡した。
「なあ、兄ちゃん」
上から様子を見ていた昌弘が兄に言った。
「あいつ、自分が可愛いって知ってるよな」
「ああ。知っているな」
「末恐ろしいってやつじゃない?」
「末恐ろしいってやつだな」
兄弟は頷き合った。