コスプレ
「ファリド三尉はいるか」
勤務が終わりどこかに寄ろうとガエリオがマクギリスを誘っているところに、違う部署の上官が来た。
「自分ですが」
ロッカールームの椅子に座っていたマクギリスが立ち上がる。
「おお、君か! 噂通りだ!」
いきなりマクギリスの腕をばんばん叩く。
「君のその美しさを見込んで頼みがある!」
実にくだらない依頼だった。
ギャラルホルン恒例年に一度の女装大会で監査局は統制局に負け続けており、今年こそ勝ちたい、いや、勝てと、監査局局長から勅命が下りた。
「まさかおまえがこんなしょーもない話を受けるとは」
「義父上への嫌がらせになるだろう?」
更衣室の外となかでガエリオはマクギリスと話をしている。
「捨て身の嫌がらせだな」
マクギリスは上官の用意した衣装を試着中だ。
「さて」
しゃっ、と音がしてカーテンが開く。
エプロンドレスを着たマクギリスを見る日が来るとは思わなかった。
「おまえ、似合うな」
白いタイツが眩しい。
リボンのついた靴を履いて外で待つ上官に見せると大絶賛だった。
「素晴らしい! さすが七家門の子息!」
いや、セブンスターズ関係ないだろ、とガエリオは思うが、次の衣装を試すためにマクギリスは試着室に戻った。
恐ろしいことにパッドの入った黒のイブニングドレスも似合った。
セーラー襟は幼年学校の制服だったから、セーラー服が似合っても驚かない。
白ブラウスにタイトスカートも、スチュワーデスの制服も、なんでこんなの用意したんだウェディングドレスまで、こいつ似合わない服がないんじゃないのかというくらい似合った。
しかしガエリオも上官も段々気づき始めた。
遂にマクギリスが口を開く。
「自分で言うのもなんですが、似合いすぎてませんか?」
ガエリオも上官も頷いた。
そう。こういう企画はどこか滑稽な可愛さがあってこそなのに、マクギリスは普通なのだ。
普通に女装が似合っている。
「そこで提案なのですが、ここで私はある男を推薦したいと思います。童顔に適度にガッチリした体格、愛嬌もあります。彼ならば必ずや私以上の成果を上げることでしょう」
上官はそれは誰だと聞くより前に、ガエリオをじっと見ていた。マクギリスの手がガエリオを示しているからだ。
「なっ! なにを言いだすんだ、マクギリス!」
「おまえなら出来る」
「したくない!」
「そんな消極的なことでどうする。監査局の威信を見せる時だぞ」
「そんな話じゃないだろう!」
「いいや!ガエリオ!おまえの女装で統制局など捻り潰してしまえ!」
ナース姿のマクギリスは凛々しく言い放った。
大会当日。
赤ずきんの扮装をしたガエリオはぶっちぎりで優勝した。
トロフィーを受け取りながら、観客席の後ろのほうでマクギリスが必死に大笑いをこらえているのが見えた。
あの野郎。最初からこういう計画か。許さん。
着替えてから部屋に引っ張り込んで、無茶苦茶啼かせてやる。
いや、いっそこのままだ。
赤ずきんのまま犯してやる。
覚悟してろ。