皿を洗う
「腹減ったー」
仕事に出ていた三日月は、マクギリスにドアを開けてもらうと、どかどかと歩いてダイニングに向かった。
「あれ?」
キッチンにガエリオの気配がないので、マクギリスを振り返った。
「急に仕事が入った。食事の支度は出来ていたから、食べておけと言っていた」
テーブルにはふたり分の料理が用意されていた。以前は「なぜうちで食べようとする!」と毎回お約束で怒っていたのに、最近すっかりうちの子扱いだ。
いつもはガエリオとマクギリスが向き合って座り、三日月はマクギリスの隣の席に座るのだが、ふたりしかいないのに隣り合わせもおかしいので、マクギリスがガエリオの席に座って食事をした。
「ガリガリ最近丸くない?」
「そうかな」
「あんまり安心されるのもちょっと」
「どういう意味だろう」
「どういう意味だと思う?」
「さあ」
食後はシンクの前にふたり並んで後片付けをした。マクギリスが洗剤をつけたスポンジで食器を洗い、三日月が拭く。なかなかいい流れだった。
「マッキーんちの皿ってなんか全部高そう」
「ガエリオのこだわりで」
「それも?」
三日月はマクギリスが洗っている大皿を指した。
「これはガエリオが大先輩から結婚祝いに頂いたとかで」
軽く水を切ってマクギリスが大皿を渡すと、三日月は左手でそれを受け取った。
はずだったが、互いの手が滑り、大皿は床に落ちた。
「あ」
マクギリスと三日月は同じ言葉を発したあと、見つめ合った。床を見なくても大皿が割れていることは明白だった。
「…すごく大事なものなら、こんな普通に使わないよね?」
「大事なものこそ普段使うことに価値があるというのがガエリオの信条で」
そのときマクギリスのシャツの胸ポケットに入っていた端末が鳴った。ガエリオだ。
「あ、マクギリス。言い忘れたが皿は洗わなくていいから。特にクランクさんから貰った大きい皿。テーブルにそのままにしておいてくれ」
マクギリスは真っ二つに割れている皿を見下ろした。
「もう少し早くそう言ってほしかった」
「もしかして」
「割った」
「いたっ」
欠片を拾い上げようとしていた三日月が声を上げた。
「おい、どうした」
「三日月が破片で指を切った」
「だーっ!」
「マッキー。血が止まらない」
「血が止まらないそうだ、ガエリオ」
「指を心臓より高い位置に上げて、しばらくじっとしてろ! 割れた皿はそのままにしておけ! 帰ってから俺が片付ける! いいか! おまえも触るなよ、マクギリス! 絶対指を切る!」
「そんなことは、あ」
「どうした」
「中指がすっぱり切れた」
「触るなと言っただろ! おまえも指を高く上げてろ! なにもするな! してくれるな! わかったな!」
一方的に怒鳴って通話は切れた。
マクギリスは三日月を見た。
「わりと酷い言われ方だと思わないか?」
「仕方ないんじゃない。この状況じゃ」
「そうか」
マクギリスと三日月はふたりで右手を高く掲げながら、とりあえずばんそうこうを貼ることにした。