プレゼント
メールで招待状を送ると、爆笑するマクギリスの動画で返信が来た。
「帰還がその日だから俺は行けないが(笑)誕生日おめでとう(笑)二十五歳の(笑)誕生日パーティーが(笑)盛り上がることを(笑)祈ってる」
爆笑で締め括られていた。
普段はむっつりしているくせにツボに入るとたいした笑い上戸だと、ガエリオはモニターの前で顔を引きつらせた。
ガエリオ自身も二十五にもなって誕生日パーティーなど恥ずかしいだけだが、主催は父だ。
「おまえが嫁をもらうまで毎年開催する」
と宣言された。要するにお見合いパーティーだ。
跡取りであることは重々承知しているが、ガエリオには結婚する気はさらさらなかった。
足枷になるような存在はいらない。
家には妹がいるし、血はそちらでつないでもらえばいい。
パーティー当日、アルミリアがおねむになるぎりぎりまでパートナーを務めさせた。
普段は忙しい兄にずっと抱っこされてアルミリアはご機嫌だった。
妹が寝てしまいメイドに連れていかれてからは多少ご令嬢のお相手をしたが、その三分の一くらいが「あの、今日はマクギリス様は?」と聞いてきたのはご愛嬌だ。
「あー疲れた」
まだ終わっていないが、ほぼ義務は果たしたという頃合いでバルコニーに出た。
たいして飲めないし食えないし、ろくなことがない。手摺にもたれて背中を丸める。
「こんなところでサボっていていいのか?」
耳の横からフルートグラスを差し出された。
白い手袋をした手。
「マクギリス」
顔を上げると軍装の友人がいた。
小首を傾げてドリンクを手渡してくる。
「これないんじゃなかったのか」
「間に合った」
手摺に背中をつけてガエリオに並ぶ。
「ん」
ガエリオはグラスを持つのと反対の手をマクギリスに向かって出した。
「なんだ」
「プレゼント」
真顔で見返されて、恥ずかしくなる。
「なんだよ! 誕生日なんだから当たり前だろ!」
「ああ、なるほど。ない」
宇宙港から直接来たのだろうから当たり前だ。そんなことはガエリオもわかっている。
「なにか欲しいのか?」
「別に。言ってみただけ」
「ガエリオ。誕生日おめでとう」
真顔で言われて、二十五にもなってこっぱずかしかった。
「お、おう」
見るとマクギリスは微笑んでいる。というかにやにやしている。
「おまえ。クソッ」
声を上げて笑うマクギリスはガエリオには珍しくないが、ほかの者には珍しいのだった。
ホールの客が不思議そうにこちらを見ていた。
その少し前のお話。
「まだ眠くない。寝ない」
アルミリアは半分まぶたを閉じながら、お付きのメイドに愚図っていた。
今日は兄の誕生日で、パーティのあいだずっと兄はアルミリアにかまってくれた。
年が離れていて仕事の為に普段は家を開けることの多い兄と、こんなに一緒にいられることは珍しい。
自室で着替えさせようとするメイドにリビングで抵抗していると、玄関から誰かが入ってきた。
「まあ、マクギリスさま」
「マッキー!」
軍装のマクギリスが入ってきて、アルミリアはメイドの手を振り払って走り寄った。
「こんばんは。アルミリア」
「マッキー、お兄様のお誕生日パーティはあちらよ」
頭を撫でられてから抱き上げられる。
「ああ。その前にアルミリアのご機嫌伺いをしようと思ってね」
片腕で抱えられてアルミリアは笑う。
「マクギリス様。誰か迎えに来させますので」
「いや。実を言うと思ったより早く着いてしまった。今行くとボードウィン卿の目的の邪魔をしてしまうだろう。アルミリアと少し遊んでから行くことにする」
メイドは少し考えたようだが、意味を察して苦笑した。
誕生日パーティという名目のお見合いパーティで、マクギリスが現れれば令嬢の何人かは明らかにそちらに行ってしまうし、ガエリオもそれに便乗する。
「マッキー、私、お兄様と広間でダンスを踊ったのよ?」
「それはすごい。もう立派なレディだね」
「マッキーとも今度踊ってあげる」
アルミリアはマクギリスの額に頬をつけた。