(10)
一緒に暮らし始めたばかりの頃。
「おい、これはなんだ」
怒気を含んだ声に、プランターに水を遣っていたマクギリスが振り返った。
ガエリオは食器棚に彼が買ってきた皿やカップを収納しているところだった。手に持っているのは引き出しに入れてあった薬の袋と錠剤だ。
「睡眠薬。眠れないときのために医師に出してもらってる」
「眠れない?」
「たまにある」
彼がこんな感じで怒ったのはこれが二度目だ。一度目はサプリメントの瓶が、ろくに食器の入っていない食器棚に並んでいるのを見たとき。以来家にいるときはガエリオが食事を作るようになって、しばらくして気づけば全部捨てられていた。
今回は納得していないという顔で、それでもガエリオは薬を引き出しに戻した。
それからしばらくしてひとりの夜、食器棚の引き出しを開けると薬がなかった。
捨てたな、とすぐ思った。
あのあと、一緒に寝ていて目を覚ますと、じっと顔を見られていたことが何度かあって、
「眠れたか?」
と訊かれるたび内心困りながら頷いていた。
セックスで疲れ果てたあとは別として、他人の体温を感じると深くは眠れない。これまではずっとそうだった。
ため息をついて引き出しを戻すと、寝室に戻った。
夜のなかにひとりでいると、自分がいるのかいないのかわからなくなる。そうしたらもうどうやっても眠れないのだが、いつもより広く使えるベッドに入り目をつむると、不思議なことに気持ちは落ち着いていた。
ガエリオは帰ってきたら言うのだろうか。
「眠れただろ?」