声
義父が私的に使っている家のひとつから出て、マクギリスは大きく息を吐いた。
あの人が多忙な身でよかった。でなければ半日と言わず三日、あるいは一週間は拘束されただろう。
ガエリオと過ごす為に使っている部屋はボードウィン家所有のため、義父は来ないなどと思っていたのは甘かった。
昨日ひとりでいるところにやって来た義父に、とにかく場所を変えてほしいと、それだけなんとか聞き入れてもらいここに連れて来られた。
義父の自分へのこだわりは異常だ。
ボードウィンに取り入れとその昔マクギリスに命じたのは義父だが、結果マクギリスがガエリオと親しくなりすぎたことを不愉快に思っている。
その前の夜ガエリオがつけた跡を消すように、それは手荒に扱われた。
マクギリスは最早非力な子どもではないが、暴力と快楽で植えつけられた恭順は理屈で覆すことが難しかった。
交通機関のある通りまではかなり遠いが、送ってもらいたくもなかったので歩く。
切っていた端末の電源を入れるとガエリオからの着信履歴が並んでいた。
「もしもし」
周囲を海に囲まれているので、どこからともなく潮の匂いがする。
そんなどうでもいいことを思いながらかけた。
「マクギリス? おまえ、どこにいる?」
心配から怒ったようになったガエリオの声だった。
別に、と答えようとして、ふいにマクギリスの胸が詰まった。
「マクギリス?」
その声で名前を呼ばれて、ようやく奪われた自分を取り戻した。