主夫の日曜日
うららかな日曜日。
フラガご夫妻は少し遠い大型スーパーまで足を伸ばして買い物して、お昼を食べて、のんびりと散歩がてらに歩いていた。
マザーズバックとお買い物袋をひっかけたベビーカーを押すのは、フラガの役目だ。
「いいお天気よねー」
マリューは気持ち良さそうに空気を吸い込んだ。
「ソフトクリームが食べたいなあ」
「コンビニに寄って、公園で食べる?」
「そうねえ」
マリューのどっちとも取れない返事は、いつものことだ。
「んじゃ、行きますよ?」
「はーい」
ふたり手をつなぎ、仲良くコンビニへ。
「あ、こんにちはー、ムウさん」
入り口で擦れ違った、幼児の手を引く女性がフラガに挨拶する。
「あ、こんちはー」
「あら、奥様? いいですねー、優しい旦那様で、羨ましいわあ」
マリューは初対面の女性にいきなり親しげに話しかけられ、少し途惑う。じゃ、またー、と去っていく背中を見送りながら、
「誰?」
と、問う。
「いつも公園で一緒になるママ友達」
フラガは、「な、」とベビーカーの中を覗き込んで、赤ちゃんに同意を求める。あーとうーしか言えない赤ちゃんが、答えるわけがないのだが。
「ふうん」
マリューの頬が少し膨らんだ。
ソフトクリームを買って、公園に向かおうとすると、またマリューの知らない女性が、フラガに親しげに挨拶した。
「こんにちはー」
「こんちはー」
「…誰?」
「ママ友達」
「…ふうん」
とか言っているあいだに、また別の女性がフラガに挨拶。
「…ママ友達?」
「そう」
このへんになると、さすがにフラガもマリューが気分を害していることに気づく。
「ママ友達ってさ、いてくれると助かるんだよ。どこの病院がいいとか、色々情報教えてくれるし」
「…ふうん。ムウって、どこでも誰とでも溶け込めちゃうのね」
「あー、それって俺の特技のひとつかも」
フラガは笑ったが、マリューの頬ははっきりと膨らんでいる。危険信号だ。
「あのさ、マリュー。わかってると思うけど、全員子持ちの奥さんだから」
「勿論わかってるわよ。それがなにか?」
「いやー、マリュー先生、意外にヤキモチ焼きだから」
マリューはきっ、とフラガを睨みつけた。
「なんですか、それは! ヤキモチなんて、焼いてません!」
いや、きみが俺に丁寧語になるときは、怒ってるときだし、流れからすると明らかに妬いてるし。
などとフラガが思っていると、公園に到着。並んでベンチに腰掛けて、手足をばたばたさせる赤ちゃんも、ふたりのあいだに。
「溶けてるよ、ソフトクリーム」
「わかってます」
そんな気分でなくなったのか、一向口をつけないソフトクリームが、コーンを伝わってマリューの指につこうとしたそのとき、フラガはひょいっと上体を倒して、溶けた部分を舌で舐めた。
「きゃっ!」
ついでにマリューの指もぺろりと舐める。
「なにするんですかっ!」
「えー、指、汚れるな、と思って。ほらほら、早く食べないと。それともまた舐めてあげようか?」
信じられない、という顔をしながら、マリューはソフトクリームに唇を寄せる。
「おいしい?」
やや間を置いて、フラガが顔を覗き込むと、マリューは黙って頷いた。
勝手に妬いて八つ当たりしたことに恥ずかしくなったのか、さっきまで膨れていた頬がほんのり赤い。
「…あなたは少し、私に甘すぎない?」
「マリュー先生は怒っても可愛いからいいんだよ」
「……」
益々赤くなるマリューと、ぽかんと両親を見上げる赤ちゃんを交互に眺めて、フラガは幸せを噛み締めた。
翌日、ママ友達にこの現場を目撃されていたフラガが、さんざん冷やかされたのは言うまでもない。さらにフラガが照れもせず、「うちの奥さん美人でしょー」と、さんざん惚気たのも、言うまでもない。