お年玉
「あなた達、これからどうするの?」
お参りが終わり、各人それぞれ家路に着いたあと、マリューはオルガ・クロト・シャニの三人に訊ねた。
三人はアパートで暮らしていて、家族はいない。
「アズラエルのおっさんが、家に来いとか言ってたから、行ってみる」
「大掃除の手伝いさせられたんだぜー、お手伝い雇うより、俺たち使ったほうがタダだからってー」
と言いつつも、三人共それほど不服ではなさそうだ。コンツェルン買収危機の憂き目にあって、アズラエルも少し変わったのか。
「じゃあ、ここでお別れね。あのね、これ、ほんとは一部の生徒にこんなことしちゃ、いけないんだけど」
マリューはフラガに持ってもらっていたバッグから、ごそごそとなにかを取り出した。それはラッピングされた、三つの小さな包み。
「はい、私からきみたちへのお年玉」
内緒よ、とマリューは人差し指を唇の前に持っていって、いたずらっぽく笑う。
三人はぽかんとしていた。勿論中身は現金などではなく、「少年少女世界名作文学集」だ。
「三冊違う本だから、読んだら三人で貸し合いっこしてね」
あらら。
少し離れたところで見ていたフラガは思った。
この三人、お年玉なんか貰ったことがないんだろうなあ。そんでもって、マリュー先生、そんなこと、思ってもないんだろうなあ。
マリューがもしそんなことを思って、三人にだけお年玉を用意したのだとしたら、偽善の匂いのする贈り物だが、そうでないところが彼女らしくて、受け取る側を泣きたいような気持ちにさせる。
実際三人の鼻の辺りが赤くなってきて、目が潤んでいた。
「よかったね、おまえら。今年は勉学に勤しむ一年にするんだな」
フラガがオルガの背中を勢いよく叩くと、
「うるせえんだよ、てめえは!」
三人は揃って毒づいたものの、マリューの前で涙を零さずにすんで、明らかにほっとした表情になった。
「お酒は飲んじゃ駄目よ。煙草も勿論駄目。元気で始業式に来てね」
「うん…」
恥ずかしいのか俯いてしまった彼らに、じゃあね、とマリューは背を向けようとした。
「マリュー先生!」
「なあに?」
「あ、あ…」
三人が口をぱくぱくさせるのに、マリューは首を傾げる。フラガはマリューの腕を軽くつついた。
「ありがとうってさ」
あら、とマリューは瞬きする。
「どういたしまして。オルガくん、クロトくん、シャニくん」
三人が今度こそ泣きそうだったので、フラガはマリューの腰を抱いて、見えないようにしてやった。
少年は涙を人に見られたくないものだから。